リンパ管造影

リンパ管造影

リンパ系の異常部位検出の手段

監修:狩谷秀治先生(関西医科大学)、井上政則先生(慶應義塾大学)、中塚誠之先生(慶應義塾大学)

リンパ系およびリンパ管造影

リンパ系とは

リンパ管のネットワークからなり、循環系の一部であると共に免疫系にも重要な役割を果たす。

リンパ管造影

乳び胸、乳び腹水およびリンパ漏を含む、様々なリンパ液の漏出部を検出するために用いられる

A Technical Review Korean J Radiol, 2014;15(6):724-732

リピオドール®480注10mL:

リンパ管造影における投与部位(例)
Ⓐ足背(足の甲)に切開を入れて、リンパ管を穿刺して本剤を緩徐に注入する。
【用法・用量】
本剤を皮膚直下の末梢リンパ管内に注入する。用量はヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルとして、通常、上腕片側 5~ 6 mL、下肢片側10mLである。注入速度は毎分0.3~0.5mL 程度が望ましい。
その他、詳細はリピオドールの添付文書にてご確認ください。 https://professionals.guerbet.jp/product-info/

リンパ管造影で対象とされる疾患例

  • 末梢におけるリンパ液の漏出

  • 末梢のリンパ管の損傷

  • 骨盤領域におけるリンパ液の漏出/リンパ嚢腫

    原因として、外科手術(後腹膜のリンパ節郭清、泌尿生殖器の腫瘍の外科手術)、悪性腫瘍、鈍的外傷、特発性細菌性腹膜炎、骨盤照射等がある。
  • 乳び性腹水

    原因として、外科手術(後腹膜のリンパ節郭清、動脈瘤の外科手術、泌尿生殖器の腫瘍の外科手術、膵臓十二指腸切除術、迷走神経切断術)、悪性腫瘍、鈍的外傷、特発性細菌性腹膜炎、肝硬変、骨盤照射、腹膜透析、腸結核、先天欠損がある。これらは治療をしないと致死的になることがある。
  • 乳び胸

    リンパ系疾患、胸部内腫瘍、外傷、外科手術、あるいはサルコイドーシス関連等が原因とされる。

    Invest Radiol 2019:54:600-615 RadioGraphic 2003:23:1541-1560

リンパ管造影 手技

1.準備

  1. ① 患者を仰向けにし、膝を立てる。
  2. ② 両足を肩幅よりやや広げる(リンパ管造影の手技を行いやすくする)。
  3. ③ 足底全体が寝台に着くように固定する。
  4. ④ 患者のリラックスした体位でしっかり固定する(穿刺中に患者が動かないため、吸引用固定バッグを用いても良い)。
  5. ⑤ 両足部を消毒し、清潔野を確保する。
注:DEHPを含む延長チューブ、およびポリカーボネート製の三方活栓等の使用は避けること。

2.リンパ管の露出

  1. ① 1%リドカインとインジゴカルミンを1:1で混和したものを第1̪趾と第2趾、第2趾と第3趾の間に、ツベルクリン針でそれぞれ0.5mLずつ皮下に注射する。
  2. ② 注射部位をマッサージし、足背皮下のリンパ管(→)が青く染まる(約3分後)。
  3. ③ リンパ管の周囲に局所麻酔を施し、2cm縦切開し、青く染まったリンパ管(→)を確認し、周囲の組織を丁寧に剥離する(できる限り結合織を取り除く)。
  4. ④ リンパ管(→)の下に2本の4-0絹糸を通し、中枢側の絹糸を中枢側に引っ張るように固定してリンパ液を流れにくくし、リンパ管を拡張させ、楔状に切った小さな紙(⇨)をリンパ管の下に差し込む(穿刺を容易にさせる)。

3.リンパ管の穿刺

  1. ①穿刺はリンパ管造影剤注入用の翼状針を用いる(推奨)。
  2. ② 針を上向きに根元から約15°曲げておき、1mLシリンジを接続し針まで生理食塩液を満たす
  3. ③ 穿刺はまず1~2mm表皮(▽)を貫通し、次いで露出したリンパ管(▼)を穿刺する(皮膚を通すことにより針が安定)
  4. ④ 生理食塩液を0.2mL程度注入し、漏れずにリンパ管が膨らむことを確認する。
  5. ⑤ あらかじめ通しておいた末梢側の絹糸でリンパ管と針(⤵)を結紮し、テープ等も用いて、針先が動かないように固定する。

4. リピオドールの注入

  1. ① シリンジポンプを用い、確実にリピオドールがリンパ管内へ注入されていることを確認する。シリンジポンプがない場合は用手的に注入する(0.3~0.5mL/分)。
  2. ② 約1mL注入された時点で、下腿の単純X線写真を撮影し、リンパ管が描出されていることを確認する。

    提供:狩谷秀治先生(関西医科大学)

  3. ③ 静脈が描出されていたり、リンパ管が描出されていない場合には、針が正しく挿入されているか、穿刺部から漏出していないかを確認する。

画像診断 2018:38:1125-1131 JSIR 2017:32:34-36 Jpn J Intervent Radiol 2020:34:166-171

関西医科大学使用例

  • ・シリンジ:ロック付きテルモシリンジ10mL
  • ・延長チューブ:サフィード延長チューブDEHP可塑剤フリー(テルモ)
  • ・穿刺針:エンハンスニードルリンパ管造影剤注入用30G(八光)
  • ・シリンジポンプ:アトムLG-2リンフォグラフィー装置CF-1000(アトムメディカル)

シリンジポンプに関する参考情報

シリンジポンプに関して、以下のように文献に記載されております。 当施設でもリンパ管造影に使用していたKN 式自動注入装置(夏目製作所,耐圧2 kgf/cm2)はすでに販売終了,破棄されていた.リンパ管造影用の針もすでに販売しておらず,再開には材料の応用での工夫を要した.注入器にはシリンジポンプ(テルフュージョン®35 型TERMO)をhi-pressure 設定(シリンジ閉塞アラーム0.82~1.36 kgf/cm2)で10 ml シリンジを使用した.閉塞アラームで注入が続けられないときは5 ml シリンジで注入すると注入を続けられた

日本消化器外科学会雑誌.2014;47(11):659-667

リンパ管造影

臨床使用例

症例1.大腿部リンパ液漏出

右大腿静脈を多部位のバイパス術のために採取後に大腿部にリンパ漏を生じた。圧迫のみで改善が見られず、診断と治療のために足背からのリンパ管造影を行った。リンパ管造影では大腿部に複数のリピオドールの漏れが観察された。この後、圧迫によりリンパ漏は改善した。
  • 図1a:リンパ管造影前大腿部単純 CT 大腿部に液体貯留(矢印)を認め、リンパ漏の所見である。 ドレーン(矢頭)が留置されている。
  • 図1b:足背リンパ管造影 細かいリンパ管が造影され,大腿部に複数箇所のリピオドールの漏れ(矢印)を認める。

提供:井上政則先生(慶應義塾大学)

症例2.食道癌術後 乳び胸水

食道癌術後に、多量の胸水を認めた。胸水は乳濁しており乳糜胸水と診断された。 このため、胸管損傷部位の同定と治療のためにリンパ管造影が施行された。
  • 図2a:リンパ管造影 第2腰椎レベルに拡張した乳び槽(矢印)が描出されている。また乳び槽から連続して胸管(矢頭)が描出され、縦隔には胸管損傷部から漏れたリピオドールの集積が見られる。
  • 図2b:リンパ管造影後単純CT 後縦隔に胸管損傷部から漏れたリピオドールの集積(矢印)を認める

提供:井上政則先生(慶應義塾大学)

ピットフォール

足背から注入されたリピオドールは下肢のリンパ管、腰リンパ本幹から乳び槽に流入し、そこから続く胸管を経て、左の鎖骨下静脈と内頸静脈の合流点(左静脈角)で静脈に入る。 よって、このルート上にない、腸リンパ系や肝リンパ系の漏出については同定できない。

JSIR 2017:32:34-36

リンパ管撮影の歴史

リンパ管撮影は1929年に京都大学の舟岡省吾博士がウサギの下肢のリンパ管造影に成功したのが始まりで、日本発の検査法である。 その後、足背のリンパ管を露出し、造影剤を注入するという現在も行われている手技は、1954年にKinmothらが開始した。当初は水溶性造影剤が用いられていたが、その後油性造影剤が使用されるようになり現在に至っている。

JSIR 2017:32:34-36

臨床的意義

リンパ系の病態診断として臨床応用されてきた。特に癌のstagingに用いられてきたが、CT、MRIなどの断層画像診断が普及し、後腹膜などのリンパ節の評価も可能となったことで、その件数は激減した。しかし、現在でもリンパ管損傷などにより生じる乳び漏出、リンパ液漏出の部位の同定などの目的で施行されている。

JSIR 2017:32:34-36