2023/12/06(水)

『RSNA2023のトピックス』
滋賀医科大学 放射線医学講座 渡邉 嘉之先生

RSNA2023は2023年11月26-30日の日程で、例年通りシカゴで開催された。今年のシカゴは寒冷で、初日は雪に見舞われ、で始まり、気温が氷点下に落ち込む日が続きました。
新型コロナウィルスの影響も完全になくなった2023年であるが、現地参加者は34000人程度で、昨年とほぼ同数であったようである。オンライン参加も継続されており、50000人程度が参加していたコロナ前の数に戻っていません。会場では多くの人が集まり、賑わいは戻ってきた印象であり、RSNAのロゴ前にはいつも多くの行列ができていた(写真1)。
今年の会長はProf. Mathew A. Mauro (UNC school of medicine、IVRが専門)であり、初日の会長講演では「Leading Through Change」のタイトルで、放射線科が新技術を積極的に取り入れ、変革を主導し、医療界の変容を促進するべきであるという内容でした。
Scientific sessionはNeuroradiologyを中心に聴講したが、口演、ポスター共に演題数が削減されていた。各曜日の午前午後に1時間のScientific sessionが組まれているが、口演発表では以前はNeuroradiologyで3会場並列で行われていたが、今年はすべて2会場となっていた。また時間毎に同じトピックが並列して行なわれており(脳腫瘍なら診断+分類、治療後評価、AIなら画像解析、画像収集など)、できれば改善してもらいたいものである。ポスター会場も設置されているディスプレイが少なくなっており、全体に空間の空いた広い場所になっていた(写真2)。Neuroradiologyでは4つのディスプレイ×4が用意されており、朝と昼にポスター発表がされていた。今年のポスター発表は座長は指定されておらず、決められた時間に演者が指定されたモニターの前に立っている形式であり、演者の来ていないところも多く見られた。全体にディスカッションは低調であり、研究発表の場としては少し寂しい感じである。Neuroradiologyのテーマとしては、AI、ラジオミクス、拡散テンソルなどの画像解析、機能的MRIなどが中心であり、大きなトピックは少なかった印象である。
セッションの1つとして、各国での放射線科を紹介する企画があり、今年はシンガポールとイタリアが発表していた。Singapore Presents: Radiology in the Lion City- The pursuit of excellence within 284 square milesに参加したが、シンガポールのヘルスケアシステムから放射線科の現状、シンガポールでの研究などを紹介していた。シンガポールは小さな国であるが、その中で3つの地域に分割して、その中で中心となる病院があり、地域毎に医療を提供しているようである。医療制度は各国で異なっており、各国の人と意見を交換できるのはRSNAならではのことである。来年は日本が特集されますので、ご関心のある方はぜひご参加ください。
機器展示会場は最新の診断医療機器、AIソフト、周辺の設備など多くのものが見られ、いつも見学が楽しみな部分です。機器メーカーでは今年はUnited Imagingが大きなブースを設置しており(昨年は参加せず)、CT/MRI装置メーカーとしてはGE、シーメンス、フィリップス、キャノンと並ぶ規模になってきている。今回United Imagingが5T-MRIを発表し、注目を集めていた。FDAの認可はまだ得ていませんが、8チャンネル送信を使用し、腹部領域でも高品質な撮影が可能となっていました。CTではキャノンがAquilion ONE / INSIGHT Edition、シーメンスが新しい2管球型CT SOMATOM Pro.PulseをこのRSNAで発表した。それぞれ特徴のある装置でありので、詳細はメーカーサイトなどを参照いただきたい。
AIに関しては今年もAI Showcaseが設置され、多くの企業が展示していた。特に韓国から多くのメーカーが出展しており、まだまだ発展しているようである。台北医科大学放射線科からDeepRad.AIといったAI画像解析ソフト会社を起業して、今回初出展を行っていた。今年のRSNAでは日本からのAIスタートアップの出展はなかったようであり、今後の日本発の会社が増えていくことを期待している。
また、生成AIがここ1年での大きなトピックであるが、ChatGPTを始めとする生成AIを用いた商品も多く出ており、特に大きく進歩した領域といえる。キーワードから所見を作成することなどは得意な分野であり、今後画像以外の部分にも大きくAIが関与していく可能性が示されていた。
雑多な感想を並べましたが、RSNAは最新の放射線医学の情報が得られる貴重な学会です。多くの方々に現地参加して、その熱気を直接感じていただくことをお勧めします。

写真1


写真2

『RSNA2023 胸部領域レポート』
佐賀大学 医学部放射線医学講座 江頭 玲子先生

11/26~12/1までの5日間、例年通りシカゴのMcCormick Placeで開催された北米放射線学会に参加しました。昨年は何となく現地参加の人数が少なく、少し寂しい感じが残っていましたが、今年はメイン通路であるグランドコンコースにも人があふれ、例年の活気を取り戻したように感じました。
胸部領域、特に肺を中心に学会報告をさせていただきます。主なトピックはフォトンカウンティングCT(Photon-Counting Detector CT: PCD)とAI(人工知能)に大別されると言えますが、疾患としては肺動脈血栓塞栓症(CTEPHを含む)、肺癌/結節、間質性肺疾患など、複数の分野にまたがっています。今回、Chest ImagingのScientific sessionは4つ、各6演題で計24演題が採択されていますが、そのうちChest CT: Photon Counting and Dose Reduction(S1-SSCH01)の5演題を含む計11演題がPCD-CTの検討と大きな比率を占めていました。PCD-CTは平たく言えば低線量、高分解能、dual-energy/spectral CTの3つの機能を一つの機器でカバーしてしまうというジョーカーのようなCTです。既に臨床応用されているのはシーメンス社製NAEOTOM Alphaのみですが、CanonおよびGEからも開発段階にある機器を用いたClinical TrialないしPhantom studyの結果が報告されました。
大阪大学の秦医師は,摘出伸展固定肺を従来型CT(512 matrix,0.6mm厚)、PCD-CT(従来型と同じもの,及び,1024 matrix,0.2mm厚)で撮影し、結節および気道(気管支および細気管支)の評価性能を同一断面の病理組織像と比較検討し、高解像度(1024 matrix,0.2mm厚)のPCD-CTにおける細気管支や小さな結節の評価能が従来型CTより優れ、mm以下の結節や細気管支の評価に期待できると報告されています(S1-SSCH01-1)。また,Emory大学のPourmorteza氏はGEで開発段階にあるPCD-CTで自作の気道ファントムを超高分解能(UHR)スペクトルイメージングで撮影、気道内腔の直径と壁の厚さを40、70および140keVの画像間で比較検討し、70keV画像が40keVおよび140keV画像と比較して、気道壁の厚さ(誤差19-110μm)および内腔径(誤差30-105μm)の推定精度が有意に高いことを示しています。超高分解能画像とスペクトル情報を組み合わせることにより、より詳細な細気管支の評価が期待できることを示唆しています(S1-SSCH01-4)。フランスのMartine Remy-Jardin医師は既に多くのPCD-CT使用経験を有し、昨年に引き続き、この分野で多くの演題を発表しています(11演題中4つ!)。急性肺動脈血栓塞栓症の診断においてCTAを従来型CTで施行した群とPCD-CTで施行した群を比較し、PCD-CTで撮影されたすべての患者において、47.7%の線量削減で精度の高い形態学的描出と高品質の灌流画像が得られたことを報告しています(M3-SSCH03-1)。また、他の発表でも、短時間で精度の高い画像を得ることが出来るため、呼吸停止が不良な患者においても満足度の高い検査が可能になることが報告されています。PCD-CTは日本国内でも増加傾向にあり、今後発売されるであろう新たな機種を含め楽しみではありますが、なにぶん高価な機器であり、導入可能な施設は当面は限られることになりそうです。
もう一つの大きなトピックであるAIは、病変の検出やsegmentation、それを用いた定量化を利用した診断や予後予測等への応用、各種CT・MRI機器に搭載/併載されたdeep learningによる再構成での画質向上/ノイズ除去の演題がありました。Deep learningによる画質向上/ノイズ除去は、各メーカーがいずれも力を入れており、読影する際には特に意識することなく、通常の画像処理の一貫として“きれいな画像”を目にする機会が増えていくことになると考えられます。元々CTやMRIはデジタルデータを画像化したものを見ているわけですが、この“きれいな画像”は真実が隠れてしまう危険と隣り合わせであることも感じます。
私自身の専門分野である間質性肺炎/肺疾患については、年々、本質的な画像診断や病態に迫る演題が採択されにくくなっています。複雑化して一般放射線科医による診断が難しくなっていること、(開発段階にあるものを含め)抗線維化薬が多く登場して治験の評価に用いることができるバイオマーカーとしての定量評価が望まれること、放射線医学領域において“イメージングバイオマーカー”としての利用を促進・発展させようという流れが大きいこと、これらの要因が関与していると考えられます。今後、PCD-CTを含め、より高精細、高分解能な画像が開発、発展していく中で、再度本質的な画像診断や病態に迫る演題が採択される流れになることを願っています。
今年はRSNA初参加となる医局の後輩二人を連れての参加で、数年ぶりにひとりぼっちではないRSNAとなりました。個人的には14回目(?)となるRSNAですが、学会前日を利用して初めてOak Parkにあるフランク・ロイド・ライト邸および近隣の建築物の見学に出かけました。自分自身は会議への参加も含め学会場にいる時間がほとんどでしたが、後輩たちは学会もシカゴの街探索も思いっきり満喫し、(演題と共に)また来たいと感じてくれたようで何よりです。

『RSNAI beyond 2016』
NHO 国立病院機構 東京医療センター 奥田 茂男先生

RSNAへの参加はパンデミックを挟んで6年ぶりである。今回のシカゴは寒い。空港に着いたら早速、雪が降っていた。タクシーに乗り「6年間に街は何か変わった?」と、ドライバーに尋ねると、almost same!と返ってきた。確かに高層ビル群を中心とした街並みは変わりないが、路上のごみが減って町がきれいになった気がした。
思い出すと、6年前のRSNAはてんやわんやであった。その前年2016年にDeep learning(DL)研究の大御所(Dr Hinton)が「放射線科医の育成はもうやめるべきだ。5年後にはDLが追い越すから」と言い放ち、米国大手情報技術会社のCEOも「放射線科医不要論」をゴールデンタイムのニュースで米国民に向けて発言した後のことである。Radiologyにとっては大変な衝撃で、「我々は患者と対話を進めなければならない」「読影室の扉を開けて他科からアクセスしやすくしよう」など、戦々恐々とした印象だった。
本年のopening sessionでは、RSNA会長Mauro先生からの「輝ける未来のため、変化をすすんで抱擁しよう」という力強いメッセージの後、ノースウエスタン記念病院Chrisman先生の基調講演では、「歴史は同じことを繰り返すわけではないが、韻を踏む*」「変化を恐れてはいけない。それはX線時代から繰り返してきたこと。arterial intelligence(AI)はこれまでの経験の延長線上にあり、より良い医療につなげてくれる」との話があり、「AI変革に一番よく対応し利用しているのは我々である」との自信を見せてくれた。6年前とは大きな違いで、聴衆の大きな共感を呼んだ。RSNAのホームページの右上にも「RSNAI」のロゴがでており、積極的に利用して医療に貢献してゆきます、という意気込みが伝わる。
やはりAI関連の演題やセッションに自然と目が留まる。放射線科関連の学会でAIが話題の中心になることはもうお馴染みの光景であるが、企業展示でも関連したメーカーのブースがたくさん並んでいた。その詳しい内容紹介は筆者の域を超えるので、数字のみの紹介とするが、全体のセッション数(演題数ではない)1077に対して「AI」で検索をかけると124セッションがヒットし、実に12%を占める。教育セッションに絞っても38セッションあった。その中にRSNA Deep Learning Labというシリーズがあり、beginner friendlyの表示付きで、底上げを図ろうという意図も感じた。
もう一つの大きな話題はphoton counting CT(PCCT)である。企業各社が検出器の開発にしのぎを削っており、学術発表でもphantom 実験のみならず、実際の臨床データの発表が増えた。心血管領域では、PCCTで得たカルシウムスコアや、ステント挿入後の冠動脈イメージングなどの臨床画像が多数発表されていた。検出器の幅(coverage)にまだ制限がある状況ではあるが、今後のさらなる発展を予感させる内容であった。
あまりにも演題数が多いので、以下は馴染みのある領域に偏った記述となることをご容赦いただきたい。心臓MRI(CMR)では、深層学習を併用する高速化に関心が持たれ、負荷灌流を含めて30分!というprotocolが、研究発表ではなく教育講演の中で実践例として紹介されていた。これまで検査時間の長いCMRであったが、いよいよ検査時間短縮が現実になりつつある。マッピングやfeature trackingなどの定量評価についても多数の演題が見られた。MRIの定量評価には常に、撮像・後解析装置に依存するばらつきの問題があり、正常範囲を装置毎に規定しなければならず、施設や装置間での比較、他施設研究の際に問題となってきた。T1マッピングに関しては、T1MESというファントームの計測をもとに標準化を行う演題があり、地味な内容ではあるが標準化の一歩として今後の展開に期待したい。
Informaticsに関する話題として、画像検査を行う「前」に、費用を患者に透明化(transparency)することが義務化されたそうだ。これは自動車保険の見積もりをするようなシステムで、「内科」「非造影・頭部MRI」「保険は blue cross」と選択すると、Total fee $1599→Insurance coverage $1599→you pay $0 みたいな表示が出るようなオンラインページを各病院が提供しなければならないらしい。
今回のRSNAではエコが意識され、バッジは丈夫な紙のみでビニールカバーがなく、コングレスバッグも耐久性のある紙袋であった。あの広い空間を温める燃料の方が気になるが…昔のRSNAは満席で入室を断られることがあったが、もはやそのよう混雑はない。パンデミックを機会にリモート技術が急伸したおかげで、ホテルの部屋からライブで視聴できるし、膨大な未視聴プログラムは、virtual accessが来年4月末まで可能とのこと。オンデマンド負債がまた貯まることになるが、視聴を続けようと思う。
実は空港に着いた時、大きな変化を感じていた。タクシースタンドはガラガラで誰も並んでおらず、ホテル間を巡回する乗り合いバスもパンデミックのあおりで姿を消していた。これに対して、UberやLyftのpick up areaは大混雑しており、これも「変革」のひとつなのであろう。


会場でのphoto spot。看板の右上には今回のテーマLeading through changeが記載されている。思い思いのポーズで「映え」を狙った列ができていた。


いつ見ても企業展示会場の規模には圧倒される!

* ‘History never repeats itself, but it does often rhyme’ is a quote often credited to Mark Twain. (RSNA Daily Bulletinより)
**今回発表の機会を得たのは、他施設の先生方を含め多数の方々のお力添えの結果であり、この場を借りて御礼申し上げます。

『RSNA 2023 に参加して』
愛媛大学大学院 医学系研究科 放射線医学 城戸 輝仁先生

今回、アメリカのシカゴで開催された第109回北米放射線学会 (RSNA 2023) に参加しました。2017年以来6年ぶりの現地参加で、当医局からは私の他に演題採択された5名(医師4名,技師1名)の計6名での参加となりました。今回もハイブリッド形式での開催で、バーチャルミーティングとの組み合わせによりスケジュールの都合で参加できなかったセッションも動画で視聴が可能でした。300以上の教育講演や3500以上のeducation、研究発表や650以上の企業展示などを通じて放射線医学における最新の研究や技術などさまざまな知見を得ることができ、最近の動向についてもアップデートすることができました。
RSNA 2023のプログラム全体を通して、近年のトレンド同様、artificial intelligence (AI) とphoton counting detector CT (PCD-CT) の演題が多くの領域で注目されていました。私の主な研究領域である心臓血管領域の画像診断においても興味深い研究が多数見られました。
PCD-CT は、昨年Siemens Healthineer社からNEOTOM Alpha が披露されRSNA 2022においても非常に多くの演題が採択され話題となりましたが、RSNA 2023 では各社がPCD-CTの開発に取り組んでいることが企業展示や研究発表を通じてうかがわれました。高精細化やエネルギースペクトラム分解能の向上により冠動脈やステント内腔評価、プラーク性状評価、extracellular volume (ECV)評価など従来のenergy integrating detector CT (EID-CT)より精度の高い評価が期待できる一方、ノイズの増加など適切な撮影条件や再構成が重要であるという知見が得られました (Session ID: T5B-SPCA-7, WB-SPCA-5, R2-SPCA-4など)。”Ultra-High-Resolution K-Edge Imaging for Characterization of Coronary Arteries with Deep-Silicon Photon-Counting CT: Comparison with Conventional Dual-Energy CT” (Session ID: M1-SSCA03-5) ではシリコン検出器を多層配置したプロトタイプPCD-CTを使用し、石灰化/ソフトプラーク、ヨード造影剤、ガドリニウム造影剤を入れた冠動脈ファントムを用いて検討が行われました。結果、ヨード定量や2種類の造影剤の分別能の向上、空間分解能の改善と約50%のブルーミングアーチファクト低減が可能であると報告されました。まだプロトタイプかつファントムでの検討ですが、このように各社で開発されているPCD-CTにはそれぞれの特色が生かされている可能性があり、各施設や目的に合ったベンダーや機種などの選択肢が広がると思われます。
AIについてもpost-processing に用いることで画質改善により、冠動脈描出の改善や被曝低減が可能とする報告や冠動脈石灰化評価や心臓のセグメンテーションなど解析の自動化への応用も報告され、当院からも負荷心筋パーフュージョンにおけるdeep learning reconstruction の有用性を報告させていただきました (Session ID: S3A-SPCA-3, S3A-SPCA-4, CAEE-54, W5B-SPCA-1, W5A-SPCA-4)。” Denoise to Visualize: The AI-Driven Post-Hoc Denoising for High-Fidelity Cardiac CT” (Session ID: CAEE-69) では、再構成後の冠動脈CTAや遅延造影CT画像に対して使用可能なdeep learningによるノイズ低減技術が紹介されていました。撮影・再構成条件を考慮する必要はありますが、AIにより比較的手軽に画質改善が行える可能性が示唆されました.これらの技術を利用することで,検査精度向上やワークフローの改善など心臓血管領域の画像診断においてAIがますます有益なツールとなっていることが示されました。また、会場では「RSNAI」という言葉が散見し、企業展示会場にもAI showcase が設置されるなど、放射線科というAIの恩恵/影響を最も受ける領域として学界全体で教育・研究に取り組んでいるということがうかがわれました。
RSNA 2023は最新の医学画像技術や研究成果を共有し、活発な議論を通じて会場の熱気を直に感じることができました。心臓血管領域を含む医学画像診断における革新的で有益な情報が満載の学会でした。最近の円安環境やシカゴへの往復は少々体に堪えますが、今後も積極的に参加し、研究や臨床に生かしていきたいと思います。

2023/06/16(金)

『ISMRM 2023に参加して』
川崎医科大学 放射線診断学 玉田 勉先生

カナダのトロントで開催された2023 ISMRM & ISMRT Annual Meeting & Exhibitionに参加いたしました。2019年にモントリオールで開催されて以来の3年ぶりの現地参加です(virtual meetingもあり)。我々の教室からは7演題をもって7名で参加しました(図1)。トロント市庁舎(図2)の前のホテルに滞在し、歩いておよそ15分のMetro Toronto Convention Centre (MTCC)が学会場でした。着いた日は日本より湿度が高く予想外でありましたが、その後は快適に過ごすことができました。私自身はトロントのISMRMは2008年以来の参加となります。この度の学会は久々の現地開催のためかポスターセッションなどがこれまで以上に活発に討論されていたのが印象的でした。
さて泌尿器領域のトピックスについて触れたいと思います。まず前立腺ですが、令和4年度に保険収載となったMRガイド下生検について、その中のin-bore生検の有用性が報告されていました(0726)。本邦では保険収載となったMR超音波fusion生検が現在急速に普及していますが、臨床的有意癌の検出能だけでなく、局所療法(HIFU、凍結療法、小線源治療など)への応用といった点でどの生検方法が臨床的に最も有益であるのか検証する必要があると感じました。次に定量評価としてT1値、T2値の同時収集における様々な撮像法を用いた臨床研究が報告されていました。それにはMR fingerprinting(2361、2367、2356)、Synthetic MRI(1877、206、2073)およびCalculated DWI(1866)が含まれていました。特に興味深かったのは、拡散強調像の撮像におけるb0画像を複数のTR、TEを用いて撮像し、ADC mapとともに、T1 mapping、T2 mappingを同時収集するCalculated DWI(MRME-DWI acquisition)であり、PI-RADS 3病変における良悪の鑑別にT1値、T2値がADCに比して有用であったと報告されていました。無駄な前立腺生検を抑える臨床効果に期待したいです(1866)。次に拡散強調像において最近話題となっているmicrostructural imagingについては、Hybrid Multidimensional MRI (0316、0725)、Luminal Water Imaging(0314、1641)およびDiffusion-Relaxation Correlation Spectrum Imaging(1227)の演題が登録されていました。これらは、前立腺組織を上皮、管腔および間質成分に分離して測定することが可能であり、MRI invisible tumorを含めた前立腺癌の検出や悪性度の評価において高い精度を示すと期待されています。今後は撮像時間の短縮に向けた取り組みが加速すると予想されます。最後に深層学習を用いた前立腺癌の診断モデルの有用性に関して複数の演題が登録されていました(1864、1878、3776)。様々な領域におけるAIを用いた画像診断モデルの確立は予想外に遅れている印象ですが、系統的な診断が行われる前立腺MRIにおいては臨床応用される可能性を秘めており今後expert radiologistsとの診断能の比較における知見が数多く発表されると思いました。
次に膀胱ですが、筋層浸潤の評価基準であるVI-RADSにおいて中心的な役割を担っている拡散強調像における様々な定量モデルを用いた筋層浸潤および組織グレード分類の診断能の比較が行われていました(0728、0968、1500、1501、1675、5168)。このような研究の発展は膀胱癌においてもバイパラメトリックMRIの臨床応用といった風潮に繋がると予想されました。
最後に腎臓です。humanのchronic kidney diseaseにおける非造影MRIの活用に関する演題を取り上げます(1221、1285、1292、2424、3048、3630、3800、3801、3802、5357)。この中で演題1221は、早期糖尿病性腎症において尿中アルブミンが正常であるにもかかわらず腎機能障害が進行するNADKD(normoalbuminuric diabetic kidney disease)の原因を検索するために、T1 mapping, T2 mapping、BOLD MRI、ASLやSSFPといったマルチパラメトリックMRIを用いて前向きに検討した結果、NADKDはその他の早期糖尿病に比して、腎皮質のT1値が高く、皮髄コントラストが低下するすなわち皮質の線維化がこのような早期の段階のNADKDにおいて生じていることを示唆し、NADKDの病態解明と早期診断における非造影MRIの有用性を報告しました。
ISMRMでは、今回紹介した臨床的な演題ばかりでなく、撮像技術の発展や撮像機器の開発状況などにも触れることができると共に、臨床医ばかりでなく多くの技術者とも交流ができ、MRIの臨床や研究において多くの知見やヒントを得ることができる有意義な学会であるため日本からも多くの若い先生方に参加されてはと思います。


図1 学会場での集合撮影


図2 トロントの市庁舎

 

『Road to ISMRM in Toronto』
東北大学病院 メディカルITセンター 大田 英揮先生

初めてISMRMに参加したのは2009年のトロント開催でした。当時はシアトルに留学中でしたが、ミシガンに留学先が変更になり、シアトルからミシガンまで、約5000kmを10日かけて自家用車でアメリカを横断してきた直後のことでした。西部劇さながらの広大な景色の中を走り続け、タイヤのパンクや車の故障に見舞われ、毎晩知らない町のモーテルに泊まりながら、スリリングで充実した日々を経験しました。到着間もないタイミングで行われたISMRMにも車と電車で向かったため、トロントはさながら横断旅行の最終地点のようになりました。自分の発表はなく参加するだけでしたが、RSNAとは異なりISMRMのカジュアルでかつ、MRI技術の専門性の高い発表に驚いた記憶があります。私は会場に通い詰め、シアトルから帯同してきた小児科医の妻はSick Kidsの見学をし、2人とも時差ボケのない充実したトロントでの一週間を過ごしました。
その後は可能な限りISMRMには参加してきましたが、2015年も含め、今回は3回目のトロント訪問となりました。AMPC (Annual Meeting Program Committee)の方々とも知り合えたお陰で、初めてEducational Course のmoderatorに指名していただき、日曜朝に務めることとなりました。その日はちょうど、恒例のFun Runの開催日でもありました。留学中に始めたランニングは今も継続しており、各学会でのFun Runも楽しみにしているのですが、汗をかいた直後のmoderatorはさすがに厳しいと思い断念しました。ビブをつけたTシャツとショートパンツで談笑しながら、Fun Run後ホテルに戻る人達を横目に、スーツ姿で会場に向かいました。
Educational Courseのセッション開始前には、知り合いがすでに何人か来ており、久しぶりに挨拶と世間話ができました。一緒にmoderatorを担当したDr. Maki(コロラド大)も旧知の仲であったこともあり、リラックスして務めることができました。私が担当したのは心血管領域のVascular Imaging: Viewing Structure and Functionというセッションでしたが、基礎から最近のトレンドまで網羅的に講演を聴くことができ、知識のリフレッシュとしてはちょうど良かったと思います。ちなみに、宣伝となりますが、この秋に仙台で、UCSDの宮崎美津恵先生と私がlocal co-organizerを務めるSociety for Magnetic Resonance Angiography (SMRA) という学会が開催されます(ホームページリンクSMRA2023)。ISMRMの心血管領域を切り取ったような会で、この領域の著名人も多数来仙していただく予定です。今回は日本の先生方からも多数の演題を提出していただきました。ご興味のある方は、是非ご参加いただければ幸いです。なお、ゲルベ様には例年SMRAにもサポートをして頂いており、この場を借りて御礼申し上げます。
昨年のロンドン(英国)は、educational talkを依頼されたこともあり頑張って現地参加しましたが、帰国前PCRが必須だった状況下で、コロナを恐れて殆ど人と話をすることが出来ませんでした。今回はコロナ前と同じような雰囲気の中で会話をすることができて、ようやくnetworkingを重視するISMRMらしさが戻ってきたように感じました。学会の参加者は5000人以上ですが、オンライン参加は500人程度であったそうです。現地がコロナ前と同様になっていることもあり、セッションの進行中もオンラインチャットを気にかけることは難しく、フロアでのディスカッションに終始する状況でした。そうなるとオンタイムでの参加のメリットは少ないようにも思われ、私見ですが今後はオンサイト+オンデマンドが中心になっていくのかもしれません。日本からの正確な参加人数は把握していませんが、コロナ前よりは若干少なめの印象はありました。旅費が高いことも参加のハードルをあげていたのかもしれません。
ISMRMにはEducational Committeeがあり、私はメンバーとして参加しています。AMPCに次ぐ規模のcommitteeであることを、今回初めてオンサイトミーティングに参加して知りました。ミッションは良質な教育コンテンツを教育講演からキュレートすること、Youtubeなどを用いた教育コンテンツの作成、 web検索上でのプレゼンスをあげること(MRIの情報=ISMRM参照とできること)などです。誰でもアクセス出来るコンテンツは、MRIを広く知ってもらうためには重要ですが、member’s benefitとの兼ね合いがあり、どこで線引きをするかが課題として議論されていました。また、国内からの発表に限って言えば、個人情報保護法に抵触しないプロセスを踏む必要性があるように思います。今後の議論を注視していきたいと思います。
Scientific Sessionは、いかにも技術寄りのISMRMらしいと言うべきなのかもしれませんが、今回は臓器を跨がってセッションが組まれているものがいくつかありました。私が発表したPower pitchのセッションは”Pitch: Ask Not What You Can Do for Your AI; Ask What Your AI Can Do for You: Razor’s Edge in Neurovascular & Cardiovascular MRI”で、心臓、血管、脳の領域がまとまっていました。同僚の発表したセッションも同様でした。また、Machine Learning (ML)で括られたセッションもありましたが、それ以外のセッションでもAI/MLが含まれている演題はほぼ必ずと言って良いほど含まれていたと思います。AIの技術は、detectionやsegmentationの他にも、workflowの改善などにも多く活用されてきていますし、今後はAI/MLとして切り分けたセッションの枠組みは変わってくるかもしれません。
学会を通して、多くの中国人研究者が渡航ビザを取得できずに現地参加できなかったことは残念でした。他の国でも同様の事は生じていたようですが、やはり中国からの発表が近年非常に多いことを踏まえると、全体的に大きな影響があったと思います。スライドさえ提出していないのは論外ですが、代理人が現地にいないとビデオスライドを流すことも許されなかったのは、学術集会としては勿体ないと思いました。リベラルなISMRMとしては、もう少し寛容であってほしいと思いました。
写真1は、同僚の発表が終わった夕方に、会場隣にある地上447mのCNタワー展望台から撮影したトロントの街並みです。地上からでも前日までと空の見え方が違うことを感じていましたが、天気の割に視界が不良だったのは、ケベック州で発生していた森林火災が原因だったようです。通常は条件が良ければナイアガラの滝も見えるそうです。写真2ですが、参加できなかったFun Runの代わりに、時差ボケで目覚めた早朝にソロランをしたときの記録です。トロント大学構内や公園内を走って一筆書きをしてみました。トロントのロードに描いたISMRM、読めますでしょうか?
最後に、多忙な院内業務・そして腹部放射線学会を主催している中、長期の国外出張に送り出してくださいました、高瀬教授をはじめ東北大学の医局の先生方には深く感謝しております。どうもありがとうございました。


写真1

写真2

 

ISMRM2023 現地レポート
東邦大学医療センター大森病院 放射線科 堀 正明先生

2023年6月3日から8日にかけて、トロントで開かれたISMRM2023に現地参加をした。今回東京(成田)からシカゴ経由で、トロント入りしたが、まずシカゴ行きのフライトが遅延し、オヘア空港での乗り継ぎがギリギリで、トロントに到着したのは4日深夜であった。荷物は当然のように、翌日午後まで到着しなかった。なので、いろいろと予定を変更せざるを得ない状況でのスタートであった。なお、土曜以降のフライトは、私以外でも5時間以上遅延した、あるいは乗り継ぎが間に合わなくなりシカゴで1泊したなどの話をたくさん聞いている。
5日月曜、自分のデジタルポスターの発表「Anisotropic and Isotropic Kurtosis Estimation of Spinal Cord Microstructure in Multiple Sclerosis and Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder」があったので、指定されたPCの前で1時間立っていたところ、共同演者でもある、Julien Cohen-Adad先生(モントリオール工科大学)がふらっと立ち寄ってくれたので、数年ぶりに直接会話、議論ができたのは私にとっては大変良かった。事前に準備した話の内容ではなく、「そういえばこの前論文を出していたけれど、あの中で…」のような、思い付きかつ論文に記載するほどでもない細かいことが聞けるのは、貴重である。ところで、このデジタルポスター発表用のPCが配置されている場所の写真を示すが、かなり広く感じる(あるいは閑散として見える、図1)。これは、プログラム(https://www.ismrm.org/23/23program.htm#paagtop)を参照すると理解できるが、同時に9つのセッションが平行して行われているからである。なお、隣り合わせのPCはそれぞれ反対を向いている。この写真は月曜に撮影したので、閑散として見えるが、火曜や水曜にはかなり賑わっており、PC前での議論も多数行われていた。
なお、今年は紙のポスター掲示(Traditional Posters)もあり、教育展示や各チャプター(支部)の展示があった。ただ、指定された大きさは36 x 36インチ(約92㎝四方)というサイズであり、周囲に十分な空間があるのになぜこのような小さなサイズ指定であるのか、理解できなかった(図2)。
また、6日火曜午後のPower Pitch Session「Neurodegeneration in Human & Animal Models」、その後のScientific Sessions(口演)「Brain Microstructure: Restriction & Exchange」、8日木曜午後のScientific Sessions(口演)「Aging Brain」でmoderatorをする機会を頂いた。特にScientific Sessions(口演)は、2時間ずっとmoderatorをし続けるので、なかなかの労働である。通常moderatorは2人1組であるが、今回、「Aging Brain」のセッションではもう1人のmoderatorが、何の連絡もなく現れなかった。口演のmoderatorは、タイムキーパーも行わなければならないので、1人で2時間行うのは非常に難しい。たまたま会場にいた、順天堂大学の菊田潤子先生に急に壇上に上がって頂き、2時間タイムキーパーを務めて頂きました。本当にありがとうございました。
さて、肝心の内容であるが、私が火曜に座長をしたセッションのタイトル「Brain Microstructure: Restriction & Exchange」は、拡散MRIの現状かつ最先端を示していると思う。拡散テンソルを主とした脳の解析では、灰白質はあまり対象にならなかった。その後、拡散テンソル以外の解析手法や、MPG多軸や多数のb値、高い空間分解の撮像が、ハードやソフトの進化で可能となり、灰白質もその対象となった場合に問題となるのは、水の交換(exchange)である。他、脳の病的状態においても当然細胞内外の水の交換が促進しているような病態も考えられる。逆に、極論すれば今まで白質の評価は制限拡散(restriction)だけを考えた解析でもある程度成り立っていたと思う。さらに、soma(グリア細胞等)を考慮した拡散MRIの撮像、解析手法においては、白質においても当然水の交換の影響は解析上も無視できない要素である。なお、このセッションは世界でも著名な拡散MRIの研究者らの発表が多く、大変勉強になるものであった(図3)。
最後に、今年のFellowにQSTの青木伊知男先生、名古屋大学の田岡俊昭先生、Junior Fellowに以前フィリップスエレクトロニクスジャパンで現オックスフォード大学の鈴木由里子先生が選出されました。おめでとうございます。(Fellow、Junior Fellowはそれぞれ18人ずつ選出されます)。

図1 デジタルポスターセッションの場所

図2 紙ポスターコーナー

図3 「Brain Microstructure: Restriction & Exchange」で座長を務める筆者。横にいるのはもう1人の座長Ante Zhu先生(GE Globalのサイエンティスト)、発表者はDmitry S Novikov先生(NYU)

 

『ISMRM2023に参加して』
岐阜大学大学院医学系研究科 放射線医学分野 松尾 政之先生

2023年6月3日から6月8日にかけて、カナダのオンタリオ州トロントで行われたInternational Society of Magnetic Resonance in Medicine (ISMRM)に参加しました。
日本でも新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」となって以降初めてのISMRMであり、久しぶりにオンサイトで参加できたことで楽しめました。現地ではノーマスクが基本で、大変多くの参加者で賑わっており、アフターコロナへ向けて着実に歩み始めたことを実感することができました。
国際学会へ演題を通し、現地で発表をするということは研究活動への1つのモチベーションになると思いますので、このままコロナ禍前のように、特に若手放射線科医が国際学会へ積極的に参加できるようになることを期待致します。
Oral発表の質疑やDigital poster session, power pitch sessionでは非常に活発な討論が行われており、Web開催では実現しがたい本来あるべき学術集会の姿を見ることができました。また、多数のハイレベルなeducational sessionと最先端のscientific sessionが用意されており、いずれのキャリアの参加者も退屈させない構成は依然と変わりありませんでした。

Metro Toronto Convention Center

数ある演題の中でも、私が興味を持った臨床・基礎それぞれをご紹介します。
臨床では、Magnetic resonance signature matching (MRSIGMA)について紹介したいと思います(#1023, #E8341)。
MRSIGMAとは、real time MRIガイド下のadaptive radiation therapyを可能にすることが期待される技術の一つであり、その概念は2020年に発表されました。MRSIGMA はNon-real-timeのMotion learning stepと、real-timeのSignature matching stepの2 stepから構成されます。
motion learning stepでは、複数の呼吸サイクル中にXD-GRASPを基本とした方法で撮影を継続し、4D motion dictionaryを作成します。Signature matching stepでは、1回250ms以下の撮像時間でsignatureのみを取得し、25ms以下の時間で4D motion dictionary の最も一致する位置とmatchingを行います。すなわち、理論上275ms以下の時間での超短時間での画像化が可能となります。このMRSIGMAがいよいよ高磁場MRI一体型放射線治療装置であるElekta Unityの研究機に搭載されたという報告があり、装置上においても300ms以下の遅延で高解像度な画像化が可能であったとのことで、MRI撮像は時間がかかるという概念が覆され驚きを隠し得ませんでした。real time MRIガイド下のadaptive radiation therapyが普及すれば病変への効果的な照射とリスク臓器の被爆量低減が可能となるため、今後の更なる発展に期待したいと思います。
基礎研究分野では、本年度は低磁場(Low filed)MRIに関連する演題が多く発表されていたのが印象的でした。大会初日にはPrimer to Low filed MRIと題して、低磁場MRI(一般的には数mTから0.5 Tぐらいまでの磁場を示します)に関する教育セミナーがあり、低磁場MRIの利点として、主に永久磁石方式を採用するため液体ヘリウムが不要であること、RFシールドが不要であること、軽量化により様々な施設への設置や移設が容易であること、電源等が比較的安価なもので代用できるため低価格で開発できること、という利点が強調されていました。
低磁場MRIは特に50-100mTの範囲での装置開発が盛んで、マサチューセッツ総合病院/ハーバード大学医学部の研究グループは、頭部計測用Halbach方式の永久磁石マグネット(80mT、49×57×27cm、112Kg)のPortable MRI scannerの開発を行い、診断画像としてはまだ改善の余地があるものの、出血や梗塞、腫瘤病変などの診断に適用可能な画像が描出されていました。また、米国で初めて低磁場MRIでFDA認可を取得したメーカーのブースは連日盛況で、ブラジルなど米国外からも注目を浴びていました。
同メーカーのMRIは65mTの磁場強度を集中治療室などのベットサイドに設置可能な搬送型MRI(頭部用)として製品化していました(国内未承認)。本製品はiPadでの簡便な操作で通常のT1、T2画像やFLAIR、拡散協調等のスキャンに対応し、数分かけて画像を取得した後にさらに2分程度かけてAIアルゴリズムによる画像再構成で画質向上を行い、65mTという低磁場とは思えないような画像を実現していました(展示は会場近くの病院から1時間かけて搬入した実物)。
超偏極MRIを利用した13C分子による代謝イメージングでは、臨床用超核偏極装置(SPINlab)を用いた研究で有名なカリフォルニア大(UCSF)のグループ(27演題)を始め、60以上の演題がありました。
あるメーカーの超偏極担当マネージャーのお話では、これまでに世界各国で延べ1000回以上の超偏極13C分子による臨床研究実績が蓄積され、現在も世界15施設でSPINlabを用いた臨床研究を実施されているようです。また、新しい代謝標的として、Glioblastomaで高発現しているテロメアーゼサブユニットの逆転写酵素であるTERT発現によるペントースリン酸回路のフラックス変動を13C Gluconolactoneを用いて超偏極MRIで検出するという研究が報告されており、IDH1変異の検出を含めて超偏極MRI技術の独自性や有用性を高める臨床応用へ向けた研究展開が着実に進んでいることを実感しました。

2023/03/20(月)

『ECR2023に参加して』

神戸大学大学院医学研究科 放射線医学分野 村上 卓道先生

この度、オーストリアのウイーンで開催されたECR2023に参加しました。COVID-19禍の為に、3年ぶりの参加です。先週まで寒かった神戸が少し暖かくなりだしたところでのウイーン出張で寒さに逆戻りかと思いましたが、温暖化の影響かウイーンはさほど寒くはありませんでした。
こちらに来て驚いたことは、こちらではマスクをしている人はほぼおらず、電車内でも、学会場でも、狭い部屋でもCOVID-19禍前のように普通に大声でしゃべっていました。昨年のRSNA2022や2月のタイでのアジアオセアニア放射線学会(AOCR)に参加した時もマスクをしている人は少なかったですが、それでもお店の店員さんなどはマスクをしていましたし、会場も2割程度はマスクをしていました。マスクに慣れている私としては非常に不安に感じ、異様な目で見られながらも、電車内はなるべくマスクをしていました。
もう一つ驚いたことは、学会場は非常に盛況でCOVID-19禍前程度の賑わいに見えるのですが、日本からの参加者が非常に少ない点です。私の見た限り10名程度しか出会いませんでした。企業の方を含めても20数名ほどでしょうか。ただ、よく見ると日本だけでなくアジアからの参加者が少ないように感じました。COVID-19禍や飛行機がロシア上空を飛べないこともあって、時間と費用が嵩むのが原因でしょうか。
学会のトピックスは、RSNA2022と同じく、やはりPhoton counting CTです。高分解能、低線量、高画質、常時のスペクトラル画像を同時に可能とする技術での研究成果の発表が多く出されていました。現在、臨床機として世界で60台ほど稼働しているそうですが、その内6台が今年度中に日本で稼働予定とのことで、JRS2023でも国内からいくつかの発表が出ることが予想されます。臨床面では、大人はもちろんのこと、特により体が小さく、呼吸や体動の制止が困難な小児患者の画像評価に重要な技術進歩です。将来、すべてのCTがPhoton counting CTに替わっていくだろうと思われました。
AI、心臓領域も多くの発表がありました。Radiomicsに関しては,教育講演といくつかのセッションが設けられており関心の高さが窺われました。ただ、Radiogenomicsはがん患者の予後評価、リスク評価、治療効果予測などの能力を持つ可能性を示す一方でエビデンスレベルが低く、負のバイアスがかかっているため実際の臨床利用は今のところまだ行われていないようすです。これからのRadiomicsの発展に期待したいと感じました。心臓MRIでは弁膜症に関する演題が目立ちました。弁膜症の画像診断は、不整脈リスク、予後予測との関連を評価するまでに発展しているようです。
3月4日に開催されたESR International Forumでは、responsibility of Radiologist as a clinicianと言うタイトルで北米、南米、ヨーロッパ、アジアの各国の先生からの講演がありました。本邦からは、京都府立医大の山田惠先生が、放射線科の専門性と医師会との関係や技師のタスクシフトに厳しく迫る鋭い講演され、会場からざわつきが起こっていました。一部の国では、超音波を放射線科で行うことを死守しようと必死の様子がありました。日本では超音波はとっくに手放してしまっていますが、CT、MRI、核医学で十分地位を確立しています。ただ、臓器別には各診療科の医師も参入してきており、放射線科医としての専門性をしっかりと担保するように努力していかなければならないとひしひしと感じました。
ESRは、AOCRと同じく、ヨーロッパ各国の放射線医学が進んでいる国から少し遅れている国までいろんなレベルでの発表があり、非常にユニークな、勉強になる学会です。若手の先生方も是非参加されて、発表されてはと思います。

 

『ECR 2023報告記』

慶應義塾大学 医学部放射線科 陣崎 雅弘先生

今年のECRは、アイルランドのProf. Adrian Bradyを大会長として、すべてのセッションがライブ配信されるハイブリッド形式で開催されました。会場は結構な賑わいで(図1)、122か国から約1万7千人の参加者があり、250社以上が出展していたそうです。

図1 受付会場の賑わい

1. 日医放総会紹介のための参加
日本医学放射線学会では、春の総会の主管校が開催前年度のECRでブースを出展し、総会のポスターを展示し参加を呼びかけることになっています。来年(2024年)、当教室が総会を主催するので、医局員5人と一緒に参加してきました(図2)。各国の学会宣伝ブースエリアが会場1階奥に割り当てられており、今年も全世界から20くらいの各国の放射線医学会がブースを出していました。Covid-19感染症の影響で、日医放がブースを出すのは久しぶりとのことでした。
ブースは現地在住の日本人の方が例年サポートをしてくれているそうで、今年もブースに来てくれた方にポスターを配布してくれたり、おにぎりやお茶を提供してくれました。驚いたのは、ブースに立っていると非常に多くの国の方々が訪れてくれて、日本は大好きでぜひ学会にも参加したいのだが参加費はいくらかとか、留学の問い合わせはどこにすればよいかなど多くの質問を頂きました。リトアニアから来たという放射線科医が、日本に行ってみたいというので理由を聞くと、「杉原千畝は戦時中のリトアニア大使でユダヤ人の多くをビザ発給で救ったので多くのユダヤ人が感謝をしており、今もリトアニアの日本大使はとても尊敬されている。そんな日本に行ってみたい」ということでした。杉原千畝の名前をECRの会場で聞くとは意外でしたが、いずれにしても日本に関心をもってくれている人がたくさんいるということを実感でき、嬉しく思いました。


図2 日医放総会紹介のブースにて

2. ECR大会
初日の夕方に開会式が行われましたが、オーケストラの演奏と共に開会し(図3)、大会長の挨拶や3人の名誉会員と3人のゴールドメダリストの紹介など、1時間半くらいの会でした。会長の挨拶では3つのことが語られました。1つは、会長が今年のテーマとして掲げた“Cycle of Life”の由来の説明で、放射線医学は、生まれる前から死んだ後にも全ての人生のサイクルにおいて関わりがあるという視点から選んだそうです。実際に大会のシンポジウムでは1つの疾患や病態に対して小児から大人までの画像所見を議論するような形式になっているものもありました。2つ目は、未来の放射線医学へ向き合う姿勢についてで、1980年代のサイクリングマラソンの例を挙げ、挑戦者が前年度優勝者に勝ったが、それは挑戦者は態勢を低くする、ギアを改良するなど、新しい試みを取り入れたのに対し、前年度優勝者はひたすら力強くこぎ続ける努力をしていたことによる。この結果は放射線医学にも当てはまり、新しい技術をタイミングよく取り入れれば素晴らしい発展をもたらす。これまでにも行われなくなった画像検査はいくつかあり、たゆまない技術革命により10年後の放射線医学は今と同様ではないということを常に意識しておくべきであると言われていました。3つ目は、今現在、患者に関わっているのは各診療科の医師(clinician)で、放射線科医は関わりはないと思われがちであるが、放射線科医も読影室に籠っている人ではなく、clinicianの一人になるべきである。Clinical teamに存在している一員として読影レポートを提供するだけではなく、常に患者さんと話をしたり各診療科の医師と話をしたりして、自分を必要とされる存在にしていかなければいけないと話されました。この3番目の内容は、RSNAでもECRでも強調されていることですが、直接患者と接するという点は私には乳腺領域以外はハードルが高いようにも感じていますが、欧米のリーダーと話すと本気で考えているようで、欧米が今後どのように展開していくのかが楽しみです。
演題では今最もホットなphoton counting CTを中心に聞きました。口演とポスター展示合わせて50題以上の演題があり、8割はシーメンスで、残りはGE、フィリップス、キャノンでした。また、これと連動してかdual energy CTの演題数も75演題と多数出ており、その多くをシーメンスとフィリップスが占めていました。いよいよ単色X線CTの時代に入っていくのだろうなという予感をさせるものがありました。ただ、国内でキャノンの高分解能CTを見ている我々にとっては、2 binのphoton counting CTがどのように臨床を変えるのかについては更なる検討が必要なのだろうと思いました。


図3 開会式のオーケストラ

3. ESR(European Society of Radiology)総会
最終日にESRの総会にオブザーバーとして参加しました。ESRは186の国から13万人の個人会員が属しているらしいです。理事長報告では、ESRの目標は、①医療における放射線科医の可視化を促進、②患者診療において異なる領域の専門家との学際的協働を強化することと報告されました。変革の時代の中で、放射線科医の役割は多面化し、新しい技術の導入や研究において放射線科は医療の革新に大きく貢献し、放射線科の将来は次世代がどのくらい他領域と交流・協働できるかにかかっている、患者と直接関わること、他国の学会、他領域の学会と交流することが重要と話していました。
その一端として、ESRの分科会のESOR ( European School of Radiology)は、放射線医学を一貫した学問として理解でき、同時に教える側の参考にもなるような基本的な内容を盛り込んだ教科書(eBook for Undergraduate Education in Radiology)を作成したことが報告されました。また、ESORはいくつかの奨学金やfellowshipを提供していること、更には、放射線医学の質と安全を担保するQuADRANTプロジェクトが放射線医学的手法の臨床監査についての本を出版したことも報告されました。
また、今年の1月に欧州がん画像連盟(EUCAIM)が設立され、10万人以上の患者から得た6000万件以上の匿名化されたがん画像アトラスを構築し、病理学、分子学、検査データとリンクさせていくことが報告されました。このアトラスは、AIツールの開発のためにEU全体の臨床医、研究者がアクセスできるようにし、4年間のプロジェクト終了までに15か国に拡大する予定とのことでした。

4. ウイーン大学
ちなみに、前述の現地在住の日本人の方との会話の中でウイーン大学は世界的に名の知られている学者を多く輩出していて、大学内には輩出した有名人の銅像が並んでいる中庭があり、観光目的で誰でも入れることを知ったので、実際に訪れてみました。大学は、博物館と見間違うような建物で、中庭で銅像の名前を見ていくと、フロイト(精神医学)、シュレディンガー(量子力学)、ドップラ(物理学)、ビルロート(外科)、ボルツマン(統計力学)、ロキタンスキー(病理学)など、医学関係のほとんどの方が知っているような錚々たる学者達の銅像を見つけることができ、感嘆しました(図4)。いずれも19世紀末から20世紀初頭の人たちで、“世紀末ウイーン“と称される時代のウイーンの学術のレベルの高さを改めて思い知りました。思えば、当教室の初代教授藤浪剛一先生も1910年頃にウイーン大学に留学し、ホルツクネヒト先生(単純X線のホルツクネヒト腔)、キーンベック先生(手の月状骨の扁平化の命名者)に師事して帰国し、日本の初の放射線科医として日本医学放射線学会の創設にも尽力しています。”世紀末ウイーン“の恩恵を日医放も受けたことを考えると、日医放の宣伝に来た身としても感慨深いものがありました。


図4 博物館のようなウィーン大学および大学の中庭に面して立ち並ぶ銅像

2022/12/14(水)

『RSNA 2022:腹部領域のトピックス』

甲府共立病院 放射線科 本杉 宇太郎先生

コロナ禍と私自身の異動が重なり2年間遠ざかっていたRSNAであるが、今回はWeb参加し久しぶりに多くの刺激を受けた。この原稿では腹部領域のトピックスとして大きく2つを取り上げご報告したい。
1つ目は、フォトンカウンティングCTの臨床報告である。フォトンカウンティングCTって何?という読者のために簡単に説明しよう。従来のCT装置には、固体シンチレーション検出器が搭載されている。このシステムでは2段階の変換プロセスが必要で、吸収されたX線はまず固体シンチレータで可視光に変換され、次にこの光が各検出器セルの裏面に取り付けられたフォトダイオードによって電気信号に変換される。フォトダイオードは、電子ノイズの影響を受けやすく信号雑音比向上には自ずと限界がある。それに加え、固体シンチレーション検出器の空間分解能は、現状で最高レベルに達しているためこれ以上の空間分解能向上を望むのは難しい状態であった。また、そもそも膨大なフォトンによって作られた光が積分時間にわたって蓄積され、全体として測定されるため、入力信号のスペクトラム情報が失われるという原理的な欠点を持ち合わせているのだ。一方、フォトンカウンティング検出器では、X線のフォトンを直接電気信号に変換する。フォトンカウンティング検出器には多くの利点がある。フォトンカウンティング検出器は陰極とピクセル化された陽極の間の強い電界によって構成されるため、固体シンチレーション検出器では必須であった光学的クロストークを回避するための隔壁が不要となる。そのため、線量利用効率が大幅に改善され、より小さな検出器のサブピクセルに分割してフォトンを検出することができ空間分解能の大幅向上が実現できる。それに加えフォトンカウンティング検出器は、フォトンのエネルギーレベルを測定することができるというそもそもの利点もある。まとめると、フォトンカウンティングCTの登場により、1)低エネルギー領域の感度が高くなるため画像コントラストが向上し、2)線量効率を落とさずに空間分解能が向上し、3)電子ノイズを回避することで被ばくを低減し、4)マルチエネルギー情報を用いた低エネルギー画像による診断や物質弁別を行うことができる。これらのうち3)と4)は従来のデュアルエナジーCTでも可能であったが、1)と2)はフォトンカウンティングCTの登場で期待できる領域である。
このフォトンカウンティングCTを臨床に用いて、どのようなメリットが得られるのか?実際の検討を見てみよう。「フォトンカウンティングCTを用いて肝の脂肪沈着量の定量を行う」という演題(Session ID: M3-SSGI05-5)では、MRI-GRET1強調 in phase/ opposed phase 画像との比較が行われた。結果はCTとMRIは類似した定量値を示したという。対象症例の肝脂肪の定量値平均はMRIで13%、フォトンカウンティングCTで12%程度であったという。MRIではプロトン密度を定量し、CTではX線減衰から定量しているので、本来であれば異なる数値がでても良いと思われる。しかし類似した定量値となったのは興味深い。また、ファントムスタディでは、ヨード存在下でも同様の正確性であることが示されており、造影後CTのデータからも脂肪肝を定量的に診断できる可能性があると演者は強調した。画質の比較をした演題もある。フォトンカウンティングCTによる空間分解能向上の臨床的意義について検討すべく腹膜疾患を対象とした検討が報告された(Session ID: M3-SSGI05-3)。従来のCTとフォトンカウンティングCTを複数条件で再構成し、腹膜播種巣の確信度を読影実験で比較したものである。結果として、確信度はフォトンカウンティングCTのデータを薄いスライス厚に再構成した画像で最も優れていたという。原理を考えれば当然の結果であり、驚くには値しない。しかし、残念だったのは提示された画像を見る限り、それほどの違いがあるようには思えなかったことだ。空間分解能の改善が、真の意味で検出感度の向上に寄与する場面は多くはないのであろう。もちろん空間分解能は大切であるが、やはり検出のためには濃度分解能が重要であることは、日々の診療で拡散強調像のコントラストを見るにつけ実感するところである。
もう一つ取り上げたい話題は深層学習を用いた様々なトライアルである。人工知能の話題はここ数年ずっと続いているが、「何に応用するか?」に関してまだまだ新しいアイデアが出てくる余地があるようだ。事前の大腸洗浄なしで撮像されたルーチンCTの画像を用いて大腸癌を自動検出することを試みた報告があった(Session ID: T6-SSGI10-3)。内視鏡による大腸癌スクリーニングはゴールドスタンダードであるが、実臨床ではとりあえずCTで見て欲しいという要望は多い。その際、必ずしも大腸洗浄と炭酸ガス注入によるいわゆるCTコロノグラフィが施行されるわけではないのが市中病院の現状であろう。ちなみに、読影実験による結果では大腸洗浄なしで撮像されたCTの大腸癌検出感度は7割程度とされているようだ。この演題では人工知能による大腸癌検出アルゴリズムを開発し、別データで検証したところ検出感度は77%、ROC曲線下面積0.77と比較的良好な結果であったという。ただし、非癌患者であっても1つ以上の偽陽性病変が指摘されることが3割に見られており、実臨床で使うにはまだまだ偽陽性が多すぎるという印象であった。日本からの演題では、東北大の大田先生がStack-of-stars法を用いた自由呼吸下ダイナミックMRIで提供される多時相のデータから、診断に適切な画像を自動選択するアイデアを発表された(Session ID: T6-SSGI10-5)。最新技術で多くの情報が得られるのは素晴らしいが、目を通さなければいけない画像が増えるのは読影医にとっては辛い。そんな状況を打開し、読影効率を向上させるための方法としてはとても興味深いと思われる。現状ではベストな時相を必ずしも自動選定できるわけではないようだが、それに近い時相(セカンドベスト)はほぼ全例で選択し得たという。今後の改良が期待される。
以上、腹部画像診断分野で興味深かった演題を取り上げ報告した。最後に、筆者が初めてWeb参加した印象を記しておこう。Web参加は予想以上に「良い」と思った。何よりも効率的に情報収集できるのが嬉しい。これまで1週間滞在して得ていた学術情報が約2日間の集中した視聴で得られてしまった。しかも時差ボケはなく、週末に家族と過ごす時間も削られない。1週間の米国旅行は楽しくはあった。だがこの便利さを経験してしまうと、「わざわざ渡航しなくても良いな」と感じてしまう。そう思うのはたぶん私だけではないであろう。

2019年12月 RSNAにて
多くの企業がDeep learningをテーマに展示を行った。

 

『RSNA 2022:乳腺及び骨軟部領域』

産業医科大学 放射線科学講座 青木 隆敏先生

2022年11月27日(日)から12月1日(木)までの5日間、アメリカシカゴのマコーミックプレイスで開催された第108回北米放射線学会(RSNA2022)に参加しました。今年のテーマは“Empowering Patients and Partners in Care”で、オープニングセッションでは患者の視点から考える放射線医学の重要性が示されました。私はCovid-19流行前のRSNA2019以来の3年ぶりの参加となります。開催前日に到着することが多いので、前日に無料シャトルバスに乗って会場に向かい、受付などを済ませておくのですが、今年は前日のバス運行がなく、到着当日はシカゴの通勤鉄道(メトラMetra)で会場入りしました。また、3年前より会期は1日短くなっていました。若干参加者は少ないようでしたが、それでも会期中ホテルから朝学会場に向かうシャトルバスはいつも満席で、機器展示会場では650を超える企業が出展して新技術を披露しており、熱気はかつてとあまり変わらない印象でした。

私は主に骨軟部、胸部、乳腺領域のscientific sessionに参加しました。印象に残ったセッションは乳腺領域ではAI and MRI for NAC Evaluation in Breast Cancers、骨軟部領域ではMetabolic, Quantitative, and Functionalのセッションです。

乳腺のAI and MRI for NAC Evaluation in Breast Cancersのセッションでは、米国における多施設共同乳癌術前化学療法臨床試験(I-SPY2 trial)のデータをもとに、造影ダイナミックMRIや拡散強調像などMultiparametric MRIから得られる指標が、浸潤性乳管癌における術前薬物療法(NAC)の病理学的完全奏効(pCR)を予期し得るかを検討した多施設共同研究の結果が発表されました(TS3-SSBR05-2)。対象例の60%をトレーニング症例、40%をテスト症例に分け、Multiparametric MRIに年齢やER/HER2などの臨床病理学的情報も取り入れ、企業や研究者からなる8つのチームがAIチャレンジした結果、3チームのパフォーマンスはAUC=0.8を超え、最高のチームはAUC=0.84でした。Multiparametric MRIから得られるデータを取り入れたAIが、NAC効果予測のバイオマーカーとして使用できる可能性が示唆されました。また、予後不良なtriple negative 乳癌については、約半数が術前全身薬物療法の効果がなく、その効果予測が重要であることから、MRIによる術前全身薬物療法の効果予測能を評価した研究が2演題発表されていました。3相(造影前、2分30秒後、遅延相)の造影dynamic MRI、拡散強調像、年齢、BMI、臨床病期、Ki-67など、MRIデータと臨床/病理データを組み合わせたdeep learning による予後予測について検討され、その診断能がAUC=0.71であったと報告されていました(TS3-SSBR05-3)。また、時間分解能9-12秒のdynamic MRIを用いて、AC療法(doxorubicin/cyclophosphamide)後2サイクル目や4サイクル目の腫瘍縮小率を評価した場合、2サイクル目までの縮小率による診断能はAUC=0.811、4サイクル目までの縮小率による診断能はAUC=0.827で、治療経過中のdynamic MRIによってpCRを予期可能と報告されていました(TS3-SSBR05-5)。骨軟部領域のMetabolic, Quantitative, and Functionalのセッションでは、大規模症例を対象として、CTにおける筋肉や脂肪の量および吸収値が、サルコペニア、フレイル、骨粗鬆症や死亡率と関連することを示した研究が複数発表されていました。臨床データと組み合わせ、AIを取り入れながら画像検査情報を余すことなく利用することで、日常診療における新たなバイオマーカーが確立されていくものと思われます。

RSNA会期中にカタールで開催されていたサッカーワールドカップ2022のグループ予選ですが、会場でもモニターでライブ視聴可能でした。日本代表が強豪のスペインやドイツに勝利し、日本でもたいへんな盛り上がりであったと思いますが、RSNA会場でも、各国からの参加者が自国チームの得点や勝利に湧いていました。

Metraで会場のマコーミックプレイスへ。駅ホームの階段を上ると会場のグランドコンコース

サッカーワールドカップ2022のライブ中継を視聴するRSNA参加者

 

『RSNA 2022現地レポート:核医学領域を中心に』

東京医科歯科大学 放射線科 横山 幸太先生

御高名な先生方に混じって、若手(卒後11年目)の視点から現地の様子をレポートしたいと思う。字数の都合があるので、今回は核医学領域を中心に、現地参加の様子と合わせて報告したいと思う。

シカゴに入るとマスクをつけている人は殆どおらず、もはやパンデミックは過去のことに感じられる雰囲気であった。演題自体もCOVID-19に関するものが昨年より減って、post COVID-19の演題がいくつか見られる程度であった。会場は、ノーマスクの現地参加者が多数おり、国際学会に来た高揚感が一気に押し寄せきた。オンライン開催に慣れてしいたが、やはり現地開催の良いところは、時間とお金をかけているので、きちんと得るものを得ようという意識が高まるところ、停止出来ないので集中力が上がること、日常臨床やバイト、家庭などの日常のdutyから解放されて集中する時間が持てるところ、気軽にディスカッション出来ること、機器展示で情報を得やすい点である。ただ、会場が離れているので、セッションの合間には慣れない革靴での長距離移動が続き、靴づれを起こしてしまったので、あまり欲張りすぎないことも大事である。合間にcase of the dayを見ながら、知らない人と相談してみたり、携帯アプリからデジタルポスター(DPS)を見たりと、とにかく濃密な4日間(学会は5日間)を過ごすことが出来た。

核医学で多かったテーマはPSMA PET、AI、核医学治療などであった。PSMA PETと核医学治療は、講演やDPSで多数の症例、生理的集積や偶発所見を見ることが出来たのが有意義であった。今もDPSで多数の症例を確認出来るのでおすすめである。個人的には日本で検査数増加が予想されるアミロイドPETの話題が気になっていたが、読影の注意点などの教育的内容が多く、学術的にはあまり新しい情報を得ることは出来なかった。ただ折角なのでCase-based Review of Brain, Head, Neck: PET/CT Workshop (In Conjunction with SNMMI)で講演されたDr. Phillip H Kuに直接質問出来たのでその内容を共有したい。彼はアミロイドPETの初期から20年以上研究に関わっており、今までに1万人以上のアミロイドPETを読影しているとのことである。講演では明らかな陰性、陽性の症例が提示されがちだが、私も少ない経験ではequivocalな症例があって、トレーニングを受けた読影者間でも差があるのではないかと伺ったところ、15%は差が生まれてしまうと報告されているとのことであった。定量評価に関してはSUVRやセンチロイド法が提唱されているが、あくまで研究目的で、日常臨床では視覚評価を優先して行っており、equivocalな症例は陽性、陰性の判定はするが、その旨を脳神経内科医に伝え、他のモダリティ(米国では主にFDG PET)や髄液などのバイオマーカーも参考にするとのことであった。我々の日常の核医学読影と何ら変わらないということと、定量ソフトの準備が整っていなくてもアミロイドPETを開始することに躊躇する必要がないという点は参考になった。
しかし、定量ソフトはあった方が良いので機器展示で情報収集を行った。核種によらず、SUVR算出は殆どのソフトで出来るが、核種により分布が異なるノーマルデータベースと比較してZスコアを算出するのは、対応している核種がソフトによって違う(例えばFlutametamolは対応しているが、Fluorobetapirは対応していないなど)ので、導入予定の製剤と合わせて検討しておく必要はある。残念ながら、現時点でセンチロイド法に対応している展示はなく、国内で松田博史先生が開発しアミクオント®と石井賢二先生のBRAINEER® Model Aくらいである。
AIの支援ソフトに関しては肺結節検出や多発性硬化症の病変検知の他、認知症領域では脳MRIのオートセグメンテーション、萎縮の領域ごと算出、レポーティングが可能なソフトが多数出ていた。5分程度で解析してレポート出来るので、実臨床でも使いやすくなったと感じた。ただ、多くは検査ごとにコストが発生する仕組みで、導入コストは低いが、ソフト購入の予算が年度ごとや節目に限られる施設ではハードルが高いとも感じた。現状、読影システムとの連携が確認出来ているシーメンスのSyngo.viaが使いやすそうであるが、今回リリースされたBayerのCalanticが機能や操作性も優れていそうで気になった。ただ、大手は似た機能のものが多いのに対して、細かいニーズに対応しているものや、他社との違いが目立つ点ではベンチャー企業のソフトも面白そうであった。来年のITEMでも引き続き注目していきたい。
認知症に関連してもう一つ挙げておくとすれば、From the Editors of RADIOLOGY: New Research That Should Impact Your Practice でも取り上げられていたAlzheimer病におけるGlympahtic systemの話題が増えていると感じた。Glympahtic systemは最近提唱された概念で、血管周囲の構造でCSFと間質液の交換を担うシステムでアミロイドのクリアランスにも関連しているとされている。Glympahtic systemの機能低下がアルツハイマーなどの変性疾患と深く関わっていると考えられており、MRI、核医学といずれもGlympahtic systemに関連した研究は今後も増えていくと思われる。

合間に見ていたDPSでは、東大からミシガン大学に留学中の黒川遼先生、真理子先生のご夫妻が昨年に引き続き多数の教育演題を出されていて驚愕した。昨年も見事RadioGraphicsに何本も掲載されていたが、今年もこの中から何本も掲載されるのであろうというクオリティの高さで、圧倒された。同世代の先生の輝かしすぎる活躍は非常に刺激になった。

Case of the dayはclassic case からrare caseなど盛り沢山であったが、時間の都合でせっかくの良質な症例に時間をかけて考えることが出来なかったのが残念である。ただ、知らない人と相談できて中々楽しかった。いかにも出来そうなアメリカ人を信用してmyeloid sarcomaで投稿したら、myeloma(plasmacytoma)だったり、小脳橋角部の石灰化腫瘤(内部に造影効果あり)を、議論するうちにCAPNON、髄膜腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫と迷い、答えを変えて間違えたり(正解はCAPNON)とやはり口に出して議論した方が記憶に残りやすく、有意義であった。来年もまた是非現地参加したいと強く思った次第である。
写真はCase of the dayに群がる人々とWorld cupに群がる人々。後者の方が多い。

2022/05/20(金)

『ISMRM 2022 肝胆膵MRIのトピックス』

山口大学大学院医学系研究科 放射線医学講座 伊東 克能先生

2022 ISMRMはロンドンにてハイブリッド形式で開催されましたが、今回はweb参加しました。肝胆膵領域の教育的講演では、AI関連、スクリーニングと定量化、Flow & perfusionのほか、 Hot Topics in Body MRIでは、時節を反映した話題としてWhat’s New in COVID-19-Related Imagingとして、1) Post-Vaccine COVID-19 Adenopathy: Multidisciplinary Recommendations、2) Multi-Organ Involvement of COVID-19 & Vaccine-Related Conditionsの2講演がありました。腹部領域におけるCOVID-19関連病変についてインパクトのある画像が提示されましたが、MRI検査まで実施される症例はそれほど多くない印象です。今後は、COVID-19後遺症関連のイメージングに関する新たな知見も出てくるかもしれません。

研究発表に関して、いくつか興味深い演題を挙げると、まずMicrostructure imagingと称される新たなパラメータに基づくliver imagingが発表されています。Probing Liver Microstructure in-vivo Using Diffusion-Relaxation Correlation Spectroscopic Imaging (DR-CSI) (3369)では、6 b-valuesと5 echo timesから15の組み合わせを選択して、18分の撮像で、肝内正常構造をcomponent.1-5として画像化するもので(comp.1=肝細胞, comp.2=胆管, comp.3=結合織, comp.4,5=血管)、正常肝とB型肝炎でcomp.1,2,4の比率に違いがあることが示されています。また肝嚢胞がcomp.6として描出されたことが示されています。これらの結果については、どのような生理的組織学的変化に対応するのか、今後の検討が必要と考えられます。またHistological correlates of DR-HIGADOS microstructural metrics in the mouse and human liver (0602)は、Diffusion-Relaxation Hepatic Imaging via Generalised Assessment of DiffusiOn Simulations (DR-HIGADOS)という手法によるliver tumor microstructure imagingに関する発表で、6 b-values, 5 echo timesの組み合わせで17分の撮像を行い、intra-cellular, extra-cellular and vascular-like waterに基づいたintra-cellular signal fraction/diffusivity, cell size, cellularityを画像化するもので、動物実験では、患者腫瘍組織移植モデルにおいて、cell size低下とcellularity上昇が認められています。臨床例では卵巣癌肝転移、悪性黒色腫肝転移でintra-cellular signal fractionが肝細胞癌より高い(線維化を反映)こと、肝細胞癌ではcell sizeがより不均一であることが示されています。臨床例は3例のみの検討であり、今後、腫瘍の組織構築や生物学的悪性度についてさらなる評価検討が必要ですが、新たな指標として興味深い検討といえます。

Advanced Liver Imaging Techniques (Digital poster)では、13C MRSに関する発表がいくつか見られました。Development of 13C MRS measurements of hepatic glutathione production: monitoring oxidative stress in vivoでは、13Cグリシンおよび13Cグルタチオン濃度を測定することで、肝グリシン-グルタチオン合成の定量化の可能性を示しています。グルタチオンは肝臓の内因性抗酸化物質であり、その代謝を定量化することで、酸化ストレスに起因する急性および慢性肝障害の病態解明に役立つものと考えられます。またSimultaneous Assessment of Complementary Metabolic Pathways in Liver Using Co-polarized Hyperpolarized 13C pyruvate and 13C dihydroxyacetone (2293) では、超偏極13Cピルビン酸と13Cジヒドロキシアセトンの同時偏極によりラット肝臓内で両薬剤の代謝物が同時に観測可能であることが示されました。この手法により急性肝障害や糖新生の状態、糖尿病やNAFLDなどの代謝性疾患を非侵襲的に評価できることが期待されます。これらの肝機能とくに代謝に関するMRS評価も今後、慢性肝疾患の病態解明、早期診断や治療方針の決定など臨床的に重要な役割を担ってくるものと思われます。

スタンフォードブリッジ:プレミアリーグ、チェルシーFCのホームスタジアム

タワーブリッジ:テムズ川に架かる跳開橋で、船舶航行時には開閉のため通行止めとなる

『ISMRM 2022での新たな体験』

千葉大学大学院医学研究院画像診断・放射線腫瘍学 横田 元先生

今年のISMRMはLondon開催であった。引き続きCOVID-19やウクライナ情勢が不透明であり、日本、中国、韓国といったアジアからの参加者は多くがweb参加であったようだ。我々の施設からの採択演題も、当初は現地でのセッションが割り当てられていたが、後日webでのプレゼンに変更可能となった。ISMRMのvirtual meeting siteは充実しており、セッションをリアルタイム視聴できるのはもちろん、教育講演などはvideoとして自由な時間に視聴が可能である。Londonは時差が8時間であり、セッションは日本時間16時から25時程度に開催されるため、日常臨床をしながらも比較的参加しやすかった。あえて問題をいうならば、non-memberでweb参加は1,660米ドルであり、学会開催時の為替レートで216,630円と高額であった。1年前から20%近く円安が進んでいることが大きく影響した。物価上昇が大きな話題になっているが、研究活動にもインフレの波が押し寄せているようだ。賃金は上がっていないので、スタグフレーションと言うのだろうか…。

世界経済を肌に感じつつ、筆者はOnline Gather Town Pitchesというセッションでweb発表を行った。このセッションは、学会会場を模したwebスペースにログインし、アバターを操作しつつカメラとマイクを使用してコミュニケーションを行うというものだ。アバターが隣同士になると会話が可能となる。特定のスペースに行くと、そのスペース内でグループでの会話が可能となる。「これがメタバースというやつか」と筆者は思ったのだが、オンラインゲームなどをやりなれた方には当たり前のことなのかもしれない。一つ残念だったのは、オリエンテーションが不十分であり、細かい機能が分かりづらいことだ。折角の座長からの質問に、どこにアバターを移動させれば会話ができるか分からず、気まずい無言状態が続くような場面が見受けられた。ただ、筆者個人は現地でのポスター発表と同様の感覚を得ることができ、新しい学会の形を感じさせるものであったため、今後の発展を期待したい。

添付した画像はQ and Aセッションの画面で、座長が事前に登録したビデオを流し、質疑口頭を行う。その後、右端に映っているような各演題に割り当てられたブースに移動し、来訪者とディスカッションを行う。筆者のセッションでは、三重大学の佐久間教授が座長を務めて下さったのだが、佐久間教授が各演題に質問をし、その後に各ブースにも廻り、セッションを大いに盛り上げて下さった。筆者は、Time estimation from stroke onset with diffusion-relaxation matrix-based T2 and ADC simultaneous mapping [program number: 4177]という演題を発表した。diffusion-relaxation matrix(DRM)はmulti-echoの拡散強調像で、ADC mapとT2 mapを同時に得ることができるシークエンスである。脳梗塞の発症後経過時間は治療方針決定に必要不可欠な情報であるが、起床時発症の場合や、バイスタンダーがいない場合は発症時間が分からない。通常の拡散強調像では、ADC値から梗塞が急性期か亜急性期かの判断は可能であるが、発症早期の経過時間は判断困難である。一方、T2値は発症後に時間と共に上昇するとされている。DRMは、通常の拡散強調像と同様に梗塞の有無を診断でき、DRMから得られたT2値は発症後経過時間と強く相関していた。また、4.5時間、6時間、16時間といった血栓溶解療法、血栓回収療法の適応時間内かどうかを、高い精度で判別することが可能であった。DRMは1つのシークエンスで梗塞の診断と経過時間推定が可能で、日常臨床に手軽に導入できると思われる。当施設からは、inhomogeneous magnetization transfer(ihMT)を利用したミエリン画像を脊髄、腕神経叢で試みた研究[program number: 2973, 4530, 4538]、MRIにaudiovisual systemが患者の不安感、造影剤副作用を減少することを示した研究[program number: 4736, 5075]の発表を行った。ihMTは多発性硬化症の脊髄病変を通常のT2強調像よりも高いコントラストで描出することが可能で、再髄鞘化が起きT2強調像では不明瞭化した病変も描出することができ、臨床現場からも高い評価を得ている。

文面の都合上、当施設からの発表を紹介するに留まってしまったが、様々な刺激的な発表がなされていた。参加登録した会のproceedingは未来永劫参照できるという大きなメリットがあり、教育講演の充実化も進んでいる。年々参加したい会に進化していると感じる。

 

『ISMRM 2022 脳神経領域のトピックス』

順天堂大学放射線科 鎌形 康司先生

ISMRM 2022はハイブリッド開催で、筆者はWEB参加のみであったが、参加した同僚に聞くとオンサイトも盛況であったとのことである。本会では、WEB参加の発表者のために新たに作られたOnline Gather.town Pitchesという形式での発表が新鮮であった。まるでロールプレイングゲームのように、自身のアバター(8ビット?のキャラクター)を操り仮想の学会場を歩き回り、他の参加者に近付くと自動的にビデオ通話が開始され実際に討論ができるといった具合である。自らの発表ブースも用意され、興味を持った参加者複数人での討論が可能であり、非常に興味深い発表形式であった。こうなると現地に行かなくては良いのでは?と思うこともあるが、やはりWEB参加だと日常業務との並行作業になる点が難しい点である。

今回のISMRMでは、我が順天堂大学放射線科のビッグボスである青木茂樹教授が栄誉あるFellowに選出された。拡散MRIの臨床応用や拡散テンソルの可視化ソフトの開発など、神経放射線医学における先駆的な貢献を評価されてのことである。加えて、昨年度まで順天堂大学で研修をしていた藤田翔平先生(現東京大学放射線科)がJunior Fellowに選出されると共にSumma Cum Laude Merit Awardを二つ受賞した(私は彼ほど優秀な後輩を知らない)。どちらも学会のポータルサイト(https://www.ismrm.org/22m/)から確認できるので、是非ご覧いただきたい。

さて、脳神経領域ではNeurofluidsというキーワードを冠したセッションが数多くみられ、近年のトピックスの一つと思われる(Neurofluids: From Macro to Micro、Quantitative Neuroimaging & Neurofluids I〜Ⅳ、Gray Matter & Neurofluids I/Ⅱ、New Look of Neurofluids Physiology I/Ⅱなど)。その中でも特にNeurofluids: From Macro to Microのセッションの演題番号0326が印象的であった。本演題では7T-MRIを用いてintravoxel incoherent motion (IVIM)により拡大血管周囲腔内の流れを評価しようという試みを行っている。IVIMで評価される従来の2成分(microvascularとparenchymal)の間に中間成分(fint)が同定され、間質液(ISF)の増加を反映すると考えられている(Wong et al., 2020)が、本演題では拡大血管周囲腔内のfintおよび中間成分の拡散率を示すDintが血管周囲腔の周りの脳実質に比べて上昇することが示されている。血管周囲腔内の拡散を評価しうる手法として興味深く、今後の疾患病態評価への期待が高まる。

かくいう私もQuantitative Neuroimaging & Neurofluids Ⅱのセッションで、アルツハイマー病を対象に血管周囲腔体積、血管周囲腔周囲の拡散率(ALPS index (Taoka et al., 2017))、脳間質の自由水(free water corrected DTI(Pasternak et al., 2009)によって算出)の変化を測定し、これらの指標と脳脊髄液アミロイドベータや認知機能スコアとの相関関係を評価した演題を発表した(演題番号3589)。Online Gather.town Pitchesでの発表であったが、興味を持った研究者が何人か質問に来てくれたのが嬉しかった。

最後にもう一つ興味深い演題を紹介したいと思う。拡散MRIを用いた振動器を必要としないvirtual MR elastographyによって乳児の脳深部灰白質を評価したという演題である(演題番号3595)。彼らは拡散MRIに基づいた仮想せん断剛性を算出し、脳乳児においては深部灰白質の中でも淡蒼球が最も硬い領域であることを報告している。脳の硬さは種々の認知症や脱髄疾患において変化していることが知られているが(Murphy et al., 2019)、MRI elastographyには専用の振動器が必要である点が普及を妨げていた。振動器なしに脳の硬さを推定することができれば非常に興味深い。

今年のISMRMを振り返るとやはりオンサイト参加が懐かしく感じた。オンサイト参加の記憶を呼び起こすため見つけたISMRM2016(シンガポール開催)の写真(1、2)を最後にお示しして、筆を置く。

写真1 ISMRM2016にて、筆者(左)と量子医科学研究所・主幹研究員の立花泰彦先生(右)。

写真2 シンガポールの夜景(マリーナベイサンズ)

 

参考文献

Murphy, M.C., Huston, J., 3rd, Ehman, R.L., 2019. MR elastography of the brain and its application in neurological diseases. NeuroImage 187, 176-183.

Pasternak, O., Sochen, N., Gur, Y., Intrator, N., Assaf, Y., 2009. Free water elimination and mapping from diffusion MRI. Magnetic resonance in medicine 62, 717-730.

Taoka, T., Masutani, Y., Kawai, H., Nakane, T., Matsuoka, K., Yasuno, F., Kishimoto, T., Naganawa, S., 2017. Evaluation of glymphatic system activity with the diffusion MR technique: diffusion tensor image analysis along the perivascular space (DTI-ALPS) in Alzheimer’s disease cases. Japanese journal of radiology 35, 172-178.

Wong, S.M., Backes, W.H., Drenthen, G.S., Zhang, C.E., Voorter, P.H.M., Staals, J., van Oostenbrugge, R.J., Jansen, J.F.A., 2020. Spectral Diffusion Analysis of Intravoxel Incoherent Motion MRI in Cerebral Small Vessel Disease. Journal of magnetic resonance imaging : JMRI 51, 1170-1180.