2023/06/16(金)

『ISMRM 2023に参加して』
川崎医科大学 放射線診断学 玉田 勉先生

カナダのトロントで開催された2023 ISMRM & ISMRT Annual Meeting & Exhibitionに参加いたしました。2019年にモントリオールで開催されて以来の3年ぶりの現地参加です(virtual meetingもあり)。我々の教室からは7演題をもって7名で参加しました(図1)。トロント市庁舎(図2)の前のホテルに滞在し、歩いておよそ15分のMetro Toronto Convention Centre (MTCC)が学会場でした。着いた日は日本より湿度が高く予想外でありましたが、その後は快適に過ごすことができました。私自身はトロントのISMRMは2008年以来の参加となります。この度の学会は久々の現地開催のためかポスターセッションなどがこれまで以上に活発に討論されていたのが印象的でした。
さて泌尿器領域のトピックスについて触れたいと思います。まず前立腺ですが、令和4年度に保険収載となったMRガイド下生検について、その中のin-bore生検の有用性が報告されていました(0726)。本邦では保険収載となったMR超音波fusion生検が現在急速に普及していますが、臨床的有意癌の検出能だけでなく、局所療法(HIFU、凍結療法、小線源治療など)への応用といった点でどの生検方法が臨床的に最も有益であるのか検証する必要があると感じました。次に定量評価としてT1値、T2値の同時収集における様々な撮像法を用いた臨床研究が報告されていました。それにはMR fingerprinting(2361、2367、2356)、Synthetic MRI(1877、206、2073)およびCalculated DWI(1866)が含まれていました。特に興味深かったのは、拡散強調像の撮像におけるb0画像を複数のTR、TEを用いて撮像し、ADC mapとともに、T1 mapping、T2 mappingを同時収集するCalculated DWI(MRME-DWI acquisition)であり、PI-RADS 3病変における良悪の鑑別にT1値、T2値がADCに比して有用であったと報告されていました。無駄な前立腺生検を抑える臨床効果に期待したいです(1866)。次に拡散強調像において最近話題となっているmicrostructural imagingについては、Hybrid Multidimensional MRI (0316、0725)、Luminal Water Imaging(0314、1641)およびDiffusion-Relaxation Correlation Spectrum Imaging(1227)の演題が登録されていました。これらは、前立腺組織を上皮、管腔および間質成分に分離して測定することが可能であり、MRI invisible tumorを含めた前立腺癌の検出や悪性度の評価において高い精度を示すと期待されています。今後は撮像時間の短縮に向けた取り組みが加速すると予想されます。最後に深層学習を用いた前立腺癌の診断モデルの有用性に関して複数の演題が登録されていました(1864、1878、3776)。様々な領域におけるAIを用いた画像診断モデルの確立は予想外に遅れている印象ですが、系統的な診断が行われる前立腺MRIにおいては臨床応用される可能性を秘めており今後expert radiologistsとの診断能の比較における知見が数多く発表されると思いました。
次に膀胱ですが、筋層浸潤の評価基準であるVI-RADSにおいて中心的な役割を担っている拡散強調像における様々な定量モデルを用いた筋層浸潤および組織グレード分類の診断能の比較が行われていました(0728、0968、1500、1501、1675、5168)。このような研究の発展は膀胱癌においてもバイパラメトリックMRIの臨床応用といった風潮に繋がると予想されました。
最後に腎臓です。humanのchronic kidney diseaseにおける非造影MRIの活用に関する演題を取り上げます(1221、1285、1292、2424、3048、3630、3800、3801、3802、5357)。この中で演題1221は、早期糖尿病性腎症において尿中アルブミンが正常であるにもかかわらず腎機能障害が進行するNADKD(normoalbuminuric diabetic kidney disease)の原因を検索するために、T1 mapping, T2 mapping、BOLD MRI、ASLやSSFPといったマルチパラメトリックMRIを用いて前向きに検討した結果、NADKDはその他の早期糖尿病に比して、腎皮質のT1値が高く、皮髄コントラストが低下するすなわち皮質の線維化がこのような早期の段階のNADKDにおいて生じていることを示唆し、NADKDの病態解明と早期診断における非造影MRIの有用性を報告しました。
ISMRMでは、今回紹介した臨床的な演題ばかりでなく、撮像技術の発展や撮像機器の開発状況などにも触れることができると共に、臨床医ばかりでなく多くの技術者とも交流ができ、MRIの臨床や研究において多くの知見やヒントを得ることができる有意義な学会であるため日本からも多くの若い先生方に参加されてはと思います。


図1 学会場での集合撮影


図2 トロントの市庁舎

 

『Road to ISMRM in Toronto』
東北大学病院 メディカルITセンター 大田 英揮先生

初めてISMRMに参加したのは2009年のトロント開催でした。当時はシアトルに留学中でしたが、ミシガンに留学先が変更になり、シアトルからミシガンまで、約5000kmを10日かけて自家用車でアメリカを横断してきた直後のことでした。西部劇さながらの広大な景色の中を走り続け、タイヤのパンクや車の故障に見舞われ、毎晩知らない町のモーテルに泊まりながら、スリリングで充実した日々を経験しました。到着間もないタイミングで行われたISMRMにも車と電車で向かったため、トロントはさながら横断旅行の最終地点のようになりました。自分の発表はなく参加するだけでしたが、RSNAとは異なりISMRMのカジュアルでかつ、MRI技術の専門性の高い発表に驚いた記憶があります。私は会場に通い詰め、シアトルから帯同してきた小児科医の妻はSick Kidsの見学をし、2人とも時差ボケのない充実したトロントでの一週間を過ごしました。
その後は可能な限りISMRMには参加してきましたが、2015年も含め、今回は3回目のトロント訪問となりました。AMPC (Annual Meeting Program Committee)の方々とも知り合えたお陰で、初めてEducational Course のmoderatorに指名していただき、日曜朝に務めることとなりました。その日はちょうど、恒例のFun Runの開催日でもありました。留学中に始めたランニングは今も継続しており、各学会でのFun Runも楽しみにしているのですが、汗をかいた直後のmoderatorはさすがに厳しいと思い断念しました。ビブをつけたTシャツとショートパンツで談笑しながら、Fun Run後ホテルに戻る人達を横目に、スーツ姿で会場に向かいました。
Educational Courseのセッション開始前には、知り合いがすでに何人か来ており、久しぶりに挨拶と世間話ができました。一緒にmoderatorを担当したDr. Maki(コロラド大)も旧知の仲であったこともあり、リラックスして務めることができました。私が担当したのは心血管領域のVascular Imaging: Viewing Structure and Functionというセッションでしたが、基礎から最近のトレンドまで網羅的に講演を聴くことができ、知識のリフレッシュとしてはちょうど良かったと思います。ちなみに、宣伝となりますが、この秋に仙台で、UCSDの宮崎美津恵先生と私がlocal co-organizerを務めるSociety for Magnetic Resonance Angiography (SMRA) という学会が開催されます(ホームページリンクSMRA2023)。ISMRMの心血管領域を切り取ったような会で、この領域の著名人も多数来仙していただく予定です。今回は日本の先生方からも多数の演題を提出していただきました。ご興味のある方は、是非ご参加いただければ幸いです。なお、ゲルベ様には例年SMRAにもサポートをして頂いており、この場を借りて御礼申し上げます。
昨年のロンドン(英国)は、educational talkを依頼されたこともあり頑張って現地参加しましたが、帰国前PCRが必須だった状況下で、コロナを恐れて殆ど人と話をすることが出来ませんでした。今回はコロナ前と同じような雰囲気の中で会話をすることができて、ようやくnetworkingを重視するISMRMらしさが戻ってきたように感じました。学会の参加者は5000人以上ですが、オンライン参加は500人程度であったそうです。現地がコロナ前と同様になっていることもあり、セッションの進行中もオンラインチャットを気にかけることは難しく、フロアでのディスカッションに終始する状況でした。そうなるとオンタイムでの参加のメリットは少ないようにも思われ、私見ですが今後はオンサイト+オンデマンドが中心になっていくのかもしれません。日本からの正確な参加人数は把握していませんが、コロナ前よりは若干少なめの印象はありました。旅費が高いことも参加のハードルをあげていたのかもしれません。
ISMRMにはEducational Committeeがあり、私はメンバーとして参加しています。AMPCに次ぐ規模のcommitteeであることを、今回初めてオンサイトミーティングに参加して知りました。ミッションは良質な教育コンテンツを教育講演からキュレートすること、Youtubeなどを用いた教育コンテンツの作成、 web検索上でのプレゼンスをあげること(MRIの情報=ISMRM参照とできること)などです。誰でもアクセス出来るコンテンツは、MRIを広く知ってもらうためには重要ですが、member’s benefitとの兼ね合いがあり、どこで線引きをするかが課題として議論されていました。また、国内からの発表に限って言えば、個人情報保護法に抵触しないプロセスを踏む必要性があるように思います。今後の議論を注視していきたいと思います。
Scientific Sessionは、いかにも技術寄りのISMRMらしいと言うべきなのかもしれませんが、今回は臓器を跨がってセッションが組まれているものがいくつかありました。私が発表したPower pitchのセッションは”Pitch: Ask Not What You Can Do for Your AI; Ask What Your AI Can Do for You: Razor’s Edge in Neurovascular & Cardiovascular MRI”で、心臓、血管、脳の領域がまとまっていました。同僚の発表したセッションも同様でした。また、Machine Learning (ML)で括られたセッションもありましたが、それ以外のセッションでもAI/MLが含まれている演題はほぼ必ずと言って良いほど含まれていたと思います。AIの技術は、detectionやsegmentationの他にも、workflowの改善などにも多く活用されてきていますし、今後はAI/MLとして切り分けたセッションの枠組みは変わってくるかもしれません。
学会を通して、多くの中国人研究者が渡航ビザを取得できずに現地参加できなかったことは残念でした。他の国でも同様の事は生じていたようですが、やはり中国からの発表が近年非常に多いことを踏まえると、全体的に大きな影響があったと思います。スライドさえ提出していないのは論外ですが、代理人が現地にいないとビデオスライドを流すことも許されなかったのは、学術集会としては勿体ないと思いました。リベラルなISMRMとしては、もう少し寛容であってほしいと思いました。
写真1は、同僚の発表が終わった夕方に、会場隣にある地上447mのCNタワー展望台から撮影したトロントの街並みです。地上からでも前日までと空の見え方が違うことを感じていましたが、天気の割に視界が不良だったのは、ケベック州で発生していた森林火災が原因だったようです。通常は条件が良ければナイアガラの滝も見えるそうです。写真2ですが、参加できなかったFun Runの代わりに、時差ボケで目覚めた早朝にソロランをしたときの記録です。トロント大学構内や公園内を走って一筆書きをしてみました。トロントのロードに描いたISMRM、読めますでしょうか?
最後に、多忙な院内業務・そして腹部放射線学会を主催している中、長期の国外出張に送り出してくださいました、高瀬教授をはじめ東北大学の医局の先生方には深く感謝しております。どうもありがとうございました。


写真1

写真2

 

ISMRM2023 現地レポート
東邦大学医療センター大森病院 放射線科 堀 正明先生

2023年6月3日から8日にかけて、トロントで開かれたISMRM2023に現地参加をした。今回東京(成田)からシカゴ経由で、トロント入りしたが、まずシカゴ行きのフライトが遅延し、オヘア空港での乗り継ぎがギリギリで、トロントに到着したのは4日深夜であった。荷物は当然のように、翌日午後まで到着しなかった。なので、いろいろと予定を変更せざるを得ない状況でのスタートであった。なお、土曜以降のフライトは、私以外でも5時間以上遅延した、あるいは乗り継ぎが間に合わなくなりシカゴで1泊したなどの話をたくさん聞いている。
5日月曜、自分のデジタルポスターの発表「Anisotropic and Isotropic Kurtosis Estimation of Spinal Cord Microstructure in Multiple Sclerosis and Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder」があったので、指定されたPCの前で1時間立っていたところ、共同演者でもある、Julien Cohen-Adad先生(モントリオール工科大学)がふらっと立ち寄ってくれたので、数年ぶりに直接会話、議論ができたのは私にとっては大変良かった。事前に準備した話の内容ではなく、「そういえばこの前論文を出していたけれど、あの中で…」のような、思い付きかつ論文に記載するほどでもない細かいことが聞けるのは、貴重である。ところで、このデジタルポスター発表用のPCが配置されている場所の写真を示すが、かなり広く感じる(あるいは閑散として見える、図1)。これは、プログラム(https://www.ismrm.org/23/23program.htm#paagtop)を参照すると理解できるが、同時に9つのセッションが平行して行われているからである。なお、隣り合わせのPCはそれぞれ反対を向いている。この写真は月曜に撮影したので、閑散として見えるが、火曜や水曜にはかなり賑わっており、PC前での議論も多数行われていた。
なお、今年は紙のポスター掲示(Traditional Posters)もあり、教育展示や各チャプター(支部)の展示があった。ただ、指定された大きさは36 x 36インチ(約92㎝四方)というサイズであり、周囲に十分な空間があるのになぜこのような小さなサイズ指定であるのか、理解できなかった(図2)。
また、6日火曜午後のPower Pitch Session「Neurodegeneration in Human & Animal Models」、その後のScientific Sessions(口演)「Brain Microstructure: Restriction & Exchange」、8日木曜午後のScientific Sessions(口演)「Aging Brain」でmoderatorをする機会を頂いた。特にScientific Sessions(口演)は、2時間ずっとmoderatorをし続けるので、なかなかの労働である。通常moderatorは2人1組であるが、今回、「Aging Brain」のセッションではもう1人のmoderatorが、何の連絡もなく現れなかった。口演のmoderatorは、タイムキーパーも行わなければならないので、1人で2時間行うのは非常に難しい。たまたま会場にいた、順天堂大学の菊田潤子先生に急に壇上に上がって頂き、2時間タイムキーパーを務めて頂きました。本当にありがとうございました。
さて、肝心の内容であるが、私が火曜に座長をしたセッションのタイトル「Brain Microstructure: Restriction & Exchange」は、拡散MRIの現状かつ最先端を示していると思う。拡散テンソルを主とした脳の解析では、灰白質はあまり対象にならなかった。その後、拡散テンソル以外の解析手法や、MPG多軸や多数のb値、高い空間分解の撮像が、ハードやソフトの進化で可能となり、灰白質もその対象となった場合に問題となるのは、水の交換(exchange)である。他、脳の病的状態においても当然細胞内外の水の交換が促進しているような病態も考えられる。逆に、極論すれば今まで白質の評価は制限拡散(restriction)だけを考えた解析でもある程度成り立っていたと思う。さらに、soma(グリア細胞等)を考慮した拡散MRIの撮像、解析手法においては、白質においても当然水の交換の影響は解析上も無視できない要素である。なお、このセッションは世界でも著名な拡散MRIの研究者らの発表が多く、大変勉強になるものであった(図3)。
最後に、今年のFellowにQSTの青木伊知男先生、名古屋大学の田岡俊昭先生、Junior Fellowに以前フィリップスエレクトロニクスジャパンで現オックスフォード大学の鈴木由里子先生が選出されました。おめでとうございます。(Fellow、Junior Fellowはそれぞれ18人ずつ選出されます)。

図1 デジタルポスターセッションの場所

図2 紙ポスターコーナー

図3 「Brain Microstructure: Restriction & Exchange」で座長を務める筆者。横にいるのはもう1人の座長Ante Zhu先生(GE Globalのサイエンティスト)、発表者はDmitry S Novikov先生(NYU)

 

『ISMRM2023に参加して』
岐阜大学大学院医学系研究科 放射線医学分野 松尾 政之先生

2023年6月3日から6月8日にかけて、カナダのオンタリオ州トロントで行われたInternational Society of Magnetic Resonance in Medicine (ISMRM)に参加しました。
日本でも新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」となって以降初めてのISMRMであり、久しぶりにオンサイトで参加できたことで楽しめました。現地ではノーマスクが基本で、大変多くの参加者で賑わっており、アフターコロナへ向けて着実に歩み始めたことを実感することができました。
国際学会へ演題を通し、現地で発表をするということは研究活動への1つのモチベーションになると思いますので、このままコロナ禍前のように、特に若手放射線科医が国際学会へ積極的に参加できるようになることを期待致します。
Oral発表の質疑やDigital poster session, power pitch sessionでは非常に活発な討論が行われており、Web開催では実現しがたい本来あるべき学術集会の姿を見ることができました。また、多数のハイレベルなeducational sessionと最先端のscientific sessionが用意されており、いずれのキャリアの参加者も退屈させない構成は依然と変わりありませんでした。

Metro Toronto Convention Center

数ある演題の中でも、私が興味を持った臨床・基礎それぞれをご紹介します。
臨床では、Magnetic resonance signature matching (MRSIGMA)について紹介したいと思います(#1023, #E8341)。
MRSIGMAとは、real time MRIガイド下のadaptive radiation therapyを可能にすることが期待される技術の一つであり、その概念は2020年に発表されました。MRSIGMA はNon-real-timeのMotion learning stepと、real-timeのSignature matching stepの2 stepから構成されます。
motion learning stepでは、複数の呼吸サイクル中にXD-GRASPを基本とした方法で撮影を継続し、4D motion dictionaryを作成します。Signature matching stepでは、1回250ms以下の撮像時間でsignatureのみを取得し、25ms以下の時間で4D motion dictionary の最も一致する位置とmatchingを行います。すなわち、理論上275ms以下の時間での超短時間での画像化が可能となります。このMRSIGMAがいよいよ高磁場MRI一体型放射線治療装置であるElekta Unityの研究機に搭載されたという報告があり、装置上においても300ms以下の遅延で高解像度な画像化が可能であったとのことで、MRI撮像は時間がかかるという概念が覆され驚きを隠し得ませんでした。real time MRIガイド下のadaptive radiation therapyが普及すれば病変への効果的な照射とリスク臓器の被爆量低減が可能となるため、今後の更なる発展に期待したいと思います。
基礎研究分野では、本年度は低磁場(Low filed)MRIに関連する演題が多く発表されていたのが印象的でした。大会初日にはPrimer to Low filed MRIと題して、低磁場MRI(一般的には数mTから0.5 Tぐらいまでの磁場を示します)に関する教育セミナーがあり、低磁場MRIの利点として、主に永久磁石方式を採用するため液体ヘリウムが不要であること、RFシールドが不要であること、軽量化により様々な施設への設置や移設が容易であること、電源等が比較的安価なもので代用できるため低価格で開発できること、という利点が強調されていました。
低磁場MRIは特に50-100mTの範囲での装置開発が盛んで、マサチューセッツ総合病院/ハーバード大学医学部の研究グループは、頭部計測用Halbach方式の永久磁石マグネット(80mT、49×57×27cm、112Kg)のPortable MRI scannerの開発を行い、診断画像としてはまだ改善の余地があるものの、出血や梗塞、腫瘤病変などの診断に適用可能な画像が描出されていました。また、米国で初めて低磁場MRIでFDA認可を取得したメーカーのブースは連日盛況で、ブラジルなど米国外からも注目を浴びていました。
同メーカーのMRIは65mTの磁場強度を集中治療室などのベットサイドに設置可能な搬送型MRI(頭部用)として製品化していました(国内未承認)。本製品はiPadでの簡便な操作で通常のT1、T2画像やFLAIR、拡散協調等のスキャンに対応し、数分かけて画像を取得した後にさらに2分程度かけてAIアルゴリズムによる画像再構成で画質向上を行い、65mTという低磁場とは思えないような画像を実現していました(展示は会場近くの病院から1時間かけて搬入した実物)。
超偏極MRIを利用した13C分子による代謝イメージングでは、臨床用超核偏極装置(SPINlab)を用いた研究で有名なカリフォルニア大(UCSF)のグループ(27演題)を始め、60以上の演題がありました。
あるメーカーの超偏極担当マネージャーのお話では、これまでに世界各国で延べ1000回以上の超偏極13C分子による臨床研究実績が蓄積され、現在も世界15施設でSPINlabを用いた臨床研究を実施されているようです。また、新しい代謝標的として、Glioblastomaで高発現しているテロメアーゼサブユニットの逆転写酵素であるTERT発現によるペントースリン酸回路のフラックス変動を13C Gluconolactoneを用いて超偏極MRIで検出するという研究が報告されており、IDH1変異の検出を含めて超偏極MRI技術の独自性や有用性を高める臨床応用へ向けた研究展開が着実に進んでいることを実感しました。

2023/03/20(月)

『ECR2023に参加して』

神戸大学大学院医学研究科 放射線医学分野 村上 卓道先生

この度、オーストリアのウイーンで開催されたECR2023に参加しました。COVID-19禍の為に、3年ぶりの参加です。先週まで寒かった神戸が少し暖かくなりだしたところでのウイーン出張で寒さに逆戻りかと思いましたが、温暖化の影響かウイーンはさほど寒くはありませんでした。
こちらに来て驚いたことは、こちらではマスクをしている人はほぼおらず、電車内でも、学会場でも、狭い部屋でもCOVID-19禍前のように普通に大声でしゃべっていました。昨年のRSNA2022や2月のタイでのアジアオセアニア放射線学会(AOCR)に参加した時もマスクをしている人は少なかったですが、それでもお店の店員さんなどはマスクをしていましたし、会場も2割程度はマスクをしていました。マスクに慣れている私としては非常に不安に感じ、異様な目で見られながらも、電車内はなるべくマスクをしていました。
もう一つ驚いたことは、学会場は非常に盛況でCOVID-19禍前程度の賑わいに見えるのですが、日本からの参加者が非常に少ない点です。私の見た限り10名程度しか出会いませんでした。企業の方を含めても20数名ほどでしょうか。ただ、よく見ると日本だけでなくアジアからの参加者が少ないように感じました。COVID-19禍や飛行機がロシア上空を飛べないこともあって、時間と費用が嵩むのが原因でしょうか。
学会のトピックスは、RSNA2022と同じく、やはりPhoton counting CTです。高分解能、低線量、高画質、常時のスペクトラル画像を同時に可能とする技術での研究成果の発表が多く出されていました。現在、臨床機として世界で60台ほど稼働しているそうですが、その内6台が今年度中に日本で稼働予定とのことで、JRS2023でも国内からいくつかの発表が出ることが予想されます。臨床面では、大人はもちろんのこと、特により体が小さく、呼吸や体動の制止が困難な小児患者の画像評価に重要な技術進歩です。将来、すべてのCTがPhoton counting CTに替わっていくだろうと思われました。
AI、心臓領域も多くの発表がありました。Radiomicsに関しては,教育講演といくつかのセッションが設けられており関心の高さが窺われました。ただ、Radiogenomicsはがん患者の予後評価、リスク評価、治療効果予測などの能力を持つ可能性を示す一方でエビデンスレベルが低く、負のバイアスがかかっているため実際の臨床利用は今のところまだ行われていないようすです。これからのRadiomicsの発展に期待したいと感じました。心臓MRIでは弁膜症に関する演題が目立ちました。弁膜症の画像診断は、不整脈リスク、予後予測との関連を評価するまでに発展しているようです。
3月4日に開催されたESR International Forumでは、responsibility of Radiologist as a clinicianと言うタイトルで北米、南米、ヨーロッパ、アジアの各国の先生からの講演がありました。本邦からは、京都府立医大の山田惠先生が、放射線科の専門性と医師会との関係や技師のタスクシフトに厳しく迫る鋭い講演され、会場からざわつきが起こっていました。一部の国では、超音波を放射線科で行うことを死守しようと必死の様子がありました。日本では超音波はとっくに手放してしまっていますが、CT、MRI、核医学で十分地位を確立しています。ただ、臓器別には各診療科の医師も参入してきており、放射線科医としての専門性をしっかりと担保するように努力していかなければならないとひしひしと感じました。
ESRは、AOCRと同じく、ヨーロッパ各国の放射線医学が進んでいる国から少し遅れている国までいろんなレベルでの発表があり、非常にユニークな、勉強になる学会です。若手の先生方も是非参加されて、発表されてはと思います。

 

『ECR 2023報告記』

慶應義塾大学 医学部放射線科 陣崎 雅弘先生

今年のECRは、アイルランドのProf. Adrian Bradyを大会長として、すべてのセッションがライブ配信されるハイブリッド形式で開催されました。会場は結構な賑わいで(図1)、122か国から約1万7千人の参加者があり、250社以上が出展していたそうです。

図1 受付会場の賑わい

1. 日医放総会紹介のための参加
日本医学放射線学会では、春の総会の主管校が開催前年度のECRでブースを出展し、総会のポスターを展示し参加を呼びかけることになっています。来年(2024年)、当教室が総会を主催するので、医局員5人と一緒に参加してきました(図2)。各国の学会宣伝ブースエリアが会場1階奥に割り当てられており、今年も全世界から20くらいの各国の放射線医学会がブースを出していました。Covid-19感染症の影響で、日医放がブースを出すのは久しぶりとのことでした。
ブースは現地在住の日本人の方が例年サポートをしてくれているそうで、今年もブースに来てくれた方にポスターを配布してくれたり、おにぎりやお茶を提供してくれました。驚いたのは、ブースに立っていると非常に多くの国の方々が訪れてくれて、日本は大好きでぜひ学会にも参加したいのだが参加費はいくらかとか、留学の問い合わせはどこにすればよいかなど多くの質問を頂きました。リトアニアから来たという放射線科医が、日本に行ってみたいというので理由を聞くと、「杉原千畝は戦時中のリトアニア大使でユダヤ人の多くをビザ発給で救ったので多くのユダヤ人が感謝をしており、今もリトアニアの日本大使はとても尊敬されている。そんな日本に行ってみたい」ということでした。杉原千畝の名前をECRの会場で聞くとは意外でしたが、いずれにしても日本に関心をもってくれている人がたくさんいるということを実感でき、嬉しく思いました。


図2 日医放総会紹介のブースにて

2. ECR大会
初日の夕方に開会式が行われましたが、オーケストラの演奏と共に開会し(図3)、大会長の挨拶や3人の名誉会員と3人のゴールドメダリストの紹介など、1時間半くらいの会でした。会長の挨拶では3つのことが語られました。1つは、会長が今年のテーマとして掲げた“Cycle of Life”の由来の説明で、放射線医学は、生まれる前から死んだ後にも全ての人生のサイクルにおいて関わりがあるという視点から選んだそうです。実際に大会のシンポジウムでは1つの疾患や病態に対して小児から大人までの画像所見を議論するような形式になっているものもありました。2つ目は、未来の放射線医学へ向き合う姿勢についてで、1980年代のサイクリングマラソンの例を挙げ、挑戦者が前年度優勝者に勝ったが、それは挑戦者は態勢を低くする、ギアを改良するなど、新しい試みを取り入れたのに対し、前年度優勝者はひたすら力強くこぎ続ける努力をしていたことによる。この結果は放射線医学にも当てはまり、新しい技術をタイミングよく取り入れれば素晴らしい発展をもたらす。これまでにも行われなくなった画像検査はいくつかあり、たゆまない技術革命により10年後の放射線医学は今と同様ではないということを常に意識しておくべきであると言われていました。3つ目は、今現在、患者に関わっているのは各診療科の医師(clinician)で、放射線科医は関わりはないと思われがちであるが、放射線科医も読影室に籠っている人ではなく、clinicianの一人になるべきである。Clinical teamに存在している一員として読影レポートを提供するだけではなく、常に患者さんと話をしたり各診療科の医師と話をしたりして、自分を必要とされる存在にしていかなければいけないと話されました。この3番目の内容は、RSNAでもECRでも強調されていることですが、直接患者と接するという点は私には乳腺領域以外はハードルが高いようにも感じていますが、欧米のリーダーと話すと本気で考えているようで、欧米が今後どのように展開していくのかが楽しみです。
演題では今最もホットなphoton counting CTを中心に聞きました。口演とポスター展示合わせて50題以上の演題があり、8割はシーメンスで、残りはGE、フィリップス、キャノンでした。また、これと連動してかdual energy CTの演題数も75演題と多数出ており、その多くをシーメンスとフィリップスが占めていました。いよいよ単色X線CTの時代に入っていくのだろうなという予感をさせるものがありました。ただ、国内でキャノンの高分解能CTを見ている我々にとっては、2 binのphoton counting CTがどのように臨床を変えるのかについては更なる検討が必要なのだろうと思いました。


図3 開会式のオーケストラ

3. ESR(European Society of Radiology)総会
最終日にESRの総会にオブザーバーとして参加しました。ESRは186の国から13万人の個人会員が属しているらしいです。理事長報告では、ESRの目標は、①医療における放射線科医の可視化を促進、②患者診療において異なる領域の専門家との学際的協働を強化することと報告されました。変革の時代の中で、放射線科医の役割は多面化し、新しい技術の導入や研究において放射線科は医療の革新に大きく貢献し、放射線科の将来は次世代がどのくらい他領域と交流・協働できるかにかかっている、患者と直接関わること、他国の学会、他領域の学会と交流することが重要と話していました。
その一端として、ESRの分科会のESOR ( European School of Radiology)は、放射線医学を一貫した学問として理解でき、同時に教える側の参考にもなるような基本的な内容を盛り込んだ教科書(eBook for Undergraduate Education in Radiology)を作成したことが報告されました。また、ESORはいくつかの奨学金やfellowshipを提供していること、更には、放射線医学の質と安全を担保するQuADRANTプロジェクトが放射線医学的手法の臨床監査についての本を出版したことも報告されました。
また、今年の1月に欧州がん画像連盟(EUCAIM)が設立され、10万人以上の患者から得た6000万件以上の匿名化されたがん画像アトラスを構築し、病理学、分子学、検査データとリンクさせていくことが報告されました。このアトラスは、AIツールの開発のためにEU全体の臨床医、研究者がアクセスできるようにし、4年間のプロジェクト終了までに15か国に拡大する予定とのことでした。

4. ウイーン大学
ちなみに、前述の現地在住の日本人の方との会話の中でウイーン大学は世界的に名の知られている学者を多く輩出していて、大学内には輩出した有名人の銅像が並んでいる中庭があり、観光目的で誰でも入れることを知ったので、実際に訪れてみました。大学は、博物館と見間違うような建物で、中庭で銅像の名前を見ていくと、フロイト(精神医学)、シュレディンガー(量子力学)、ドップラ(物理学)、ビルロート(外科)、ボルツマン(統計力学)、ロキタンスキー(病理学)など、医学関係のほとんどの方が知っているような錚々たる学者達の銅像を見つけることができ、感嘆しました(図4)。いずれも19世紀末から20世紀初頭の人たちで、“世紀末ウイーン“と称される時代のウイーンの学術のレベルの高さを改めて思い知りました。思えば、当教室の初代教授藤浪剛一先生も1910年頃にウイーン大学に留学し、ホルツクネヒト先生(単純X線のホルツクネヒト腔)、キーンベック先生(手の月状骨の扁平化の命名者)に師事して帰国し、日本の初の放射線科医として日本医学放射線学会の創設にも尽力しています。”世紀末ウイーン“の恩恵を日医放も受けたことを考えると、日医放の宣伝に来た身としても感慨深いものがありました。


図4 博物館のようなウィーン大学および大学の中庭に面して立ち並ぶ銅像

2022/12/14(水)

『RSNA 2022:腹部領域のトピックス』

甲府共立病院 放射線科 本杉 宇太郎先生

コロナ禍と私自身の異動が重なり2年間遠ざかっていたRSNAであるが、今回はWeb参加し久しぶりに多くの刺激を受けた。この原稿では腹部領域のトピックスとして大きく2つを取り上げご報告したい。
1つ目は、フォトンカウンティングCTの臨床報告である。フォトンカウンティングCTって何?という読者のために簡単に説明しよう。従来のCT装置には、固体シンチレーション検出器が搭載されている。このシステムでは2段階の変換プロセスが必要で、吸収されたX線はまず固体シンチレータで可視光に変換され、次にこの光が各検出器セルの裏面に取り付けられたフォトダイオードによって電気信号に変換される。フォトダイオードは、電子ノイズの影響を受けやすく信号雑音比向上には自ずと限界がある。それに加え、固体シンチレーション検出器の空間分解能は、現状で最高レベルに達しているためこれ以上の空間分解能向上を望むのは難しい状態であった。また、そもそも膨大なフォトンによって作られた光が積分時間にわたって蓄積され、全体として測定されるため、入力信号のスペクトラム情報が失われるという原理的な欠点を持ち合わせているのだ。一方、フォトンカウンティング検出器では、X線のフォトンを直接電気信号に変換する。フォトンカウンティング検出器には多くの利点がある。フォトンカウンティング検出器は陰極とピクセル化された陽極の間の強い電界によって構成されるため、固体シンチレーション検出器では必須であった光学的クロストークを回避するための隔壁が不要となる。そのため、線量利用効率が大幅に改善され、より小さな検出器のサブピクセルに分割してフォトンを検出することができ空間分解能の大幅向上が実現できる。それに加えフォトンカウンティング検出器は、フォトンのエネルギーレベルを測定することができるというそもそもの利点もある。まとめると、フォトンカウンティングCTの登場により、1)低エネルギー領域の感度が高くなるため画像コントラストが向上し、2)線量効率を落とさずに空間分解能が向上し、3)電子ノイズを回避することで被ばくを低減し、4)マルチエネルギー情報を用いた低エネルギー画像による診断や物質弁別を行うことができる。これらのうち3)と4)は従来のデュアルエナジーCTでも可能であったが、1)と2)はフォトンカウンティングCTの登場で期待できる領域である。
このフォトンカウンティングCTを臨床に用いて、どのようなメリットが得られるのか?実際の検討を見てみよう。「フォトンカウンティングCTを用いて肝の脂肪沈着量の定量を行う」という演題(Session ID: M3-SSGI05-5)では、MRI-GRET1強調 in phase/ opposed phase 画像との比較が行われた。結果はCTとMRIは類似した定量値を示したという。対象症例の肝脂肪の定量値平均はMRIで13%、フォトンカウンティングCTで12%程度であったという。MRIではプロトン密度を定量し、CTではX線減衰から定量しているので、本来であれば異なる数値がでても良いと思われる。しかし類似した定量値となったのは興味深い。また、ファントムスタディでは、ヨード存在下でも同様の正確性であることが示されており、造影後CTのデータからも脂肪肝を定量的に診断できる可能性があると演者は強調した。画質の比較をした演題もある。フォトンカウンティングCTによる空間分解能向上の臨床的意義について検討すべく腹膜疾患を対象とした検討が報告された(Session ID: M3-SSGI05-3)。従来のCTとフォトンカウンティングCTを複数条件で再構成し、腹膜播種巣の確信度を読影実験で比較したものである。結果として、確信度はフォトンカウンティングCTのデータを薄いスライス厚に再構成した画像で最も優れていたという。原理を考えれば当然の結果であり、驚くには値しない。しかし、残念だったのは提示された画像を見る限り、それほどの違いがあるようには思えなかったことだ。空間分解能の改善が、真の意味で検出感度の向上に寄与する場面は多くはないのであろう。もちろん空間分解能は大切であるが、やはり検出のためには濃度分解能が重要であることは、日々の診療で拡散強調像のコントラストを見るにつけ実感するところである。
もう一つ取り上げたい話題は深層学習を用いた様々なトライアルである。人工知能の話題はここ数年ずっと続いているが、「何に応用するか?」に関してまだまだ新しいアイデアが出てくる余地があるようだ。事前の大腸洗浄なしで撮像されたルーチンCTの画像を用いて大腸癌を自動検出することを試みた報告があった(Session ID: T6-SSGI10-3)。内視鏡による大腸癌スクリーニングはゴールドスタンダードであるが、実臨床ではとりあえずCTで見て欲しいという要望は多い。その際、必ずしも大腸洗浄と炭酸ガス注入によるいわゆるCTコロノグラフィが施行されるわけではないのが市中病院の現状であろう。ちなみに、読影実験による結果では大腸洗浄なしで撮像されたCTの大腸癌検出感度は7割程度とされているようだ。この演題では人工知能による大腸癌検出アルゴリズムを開発し、別データで検証したところ検出感度は77%、ROC曲線下面積0.77と比較的良好な結果であったという。ただし、非癌患者であっても1つ以上の偽陽性病変が指摘されることが3割に見られており、実臨床で使うにはまだまだ偽陽性が多すぎるという印象であった。日本からの演題では、東北大の大田先生がStack-of-stars法を用いた自由呼吸下ダイナミックMRIで提供される多時相のデータから、診断に適切な画像を自動選択するアイデアを発表された(Session ID: T6-SSGI10-5)。最新技術で多くの情報が得られるのは素晴らしいが、目を通さなければいけない画像が増えるのは読影医にとっては辛い。そんな状況を打開し、読影効率を向上させるための方法としてはとても興味深いと思われる。現状ではベストな時相を必ずしも自動選定できるわけではないようだが、それに近い時相(セカンドベスト)はほぼ全例で選択し得たという。今後の改良が期待される。
以上、腹部画像診断分野で興味深かった演題を取り上げ報告した。最後に、筆者が初めてWeb参加した印象を記しておこう。Web参加は予想以上に「良い」と思った。何よりも効率的に情報収集できるのが嬉しい。これまで1週間滞在して得ていた学術情報が約2日間の集中した視聴で得られてしまった。しかも時差ボケはなく、週末に家族と過ごす時間も削られない。1週間の米国旅行は楽しくはあった。だがこの便利さを経験してしまうと、「わざわざ渡航しなくても良いな」と感じてしまう。そう思うのはたぶん私だけではないであろう。

2019年12月 RSNAにて
多くの企業がDeep learningをテーマに展示を行った。

 

『RSNA 2022:乳腺及び骨軟部領域』

産業医科大学 放射線科学講座 青木 隆敏先生

2022年11月27日(日)から12月1日(木)までの5日間、アメリカシカゴのマコーミックプレイスで開催された第108回北米放射線学会(RSNA2022)に参加しました。今年のテーマは“Empowering Patients and Partners in Care”で、オープニングセッションでは患者の視点から考える放射線医学の重要性が示されました。私はCovid-19流行前のRSNA2019以来の3年ぶりの参加となります。開催前日に到着することが多いので、前日に無料シャトルバスに乗って会場に向かい、受付などを済ませておくのですが、今年は前日のバス運行がなく、到着当日はシカゴの通勤鉄道(メトラMetra)で会場入りしました。また、3年前より会期は1日短くなっていました。若干参加者は少ないようでしたが、それでも会期中ホテルから朝学会場に向かうシャトルバスはいつも満席で、機器展示会場では650を超える企業が出展して新技術を披露しており、熱気はかつてとあまり変わらない印象でした。

私は主に骨軟部、胸部、乳腺領域のscientific sessionに参加しました。印象に残ったセッションは乳腺領域ではAI and MRI for NAC Evaluation in Breast Cancers、骨軟部領域ではMetabolic, Quantitative, and Functionalのセッションです。

乳腺のAI and MRI for NAC Evaluation in Breast Cancersのセッションでは、米国における多施設共同乳癌術前化学療法臨床試験(I-SPY2 trial)のデータをもとに、造影ダイナミックMRIや拡散強調像などMultiparametric MRIから得られる指標が、浸潤性乳管癌における術前薬物療法(NAC)の病理学的完全奏効(pCR)を予期し得るかを検討した多施設共同研究の結果が発表されました(TS3-SSBR05-2)。対象例の60%をトレーニング症例、40%をテスト症例に分け、Multiparametric MRIに年齢やER/HER2などの臨床病理学的情報も取り入れ、企業や研究者からなる8つのチームがAIチャレンジした結果、3チームのパフォーマンスはAUC=0.8を超え、最高のチームはAUC=0.84でした。Multiparametric MRIから得られるデータを取り入れたAIが、NAC効果予測のバイオマーカーとして使用できる可能性が示唆されました。また、予後不良なtriple negative 乳癌については、約半数が術前全身薬物療法の効果がなく、その効果予測が重要であることから、MRIによる術前全身薬物療法の効果予測能を評価した研究が2演題発表されていました。3相(造影前、2分30秒後、遅延相)の造影dynamic MRI、拡散強調像、年齢、BMI、臨床病期、Ki-67など、MRIデータと臨床/病理データを組み合わせたdeep learning による予後予測について検討され、その診断能がAUC=0.71であったと報告されていました(TS3-SSBR05-3)。また、時間分解能9-12秒のdynamic MRIを用いて、AC療法(doxorubicin/cyclophosphamide)後2サイクル目や4サイクル目の腫瘍縮小率を評価した場合、2サイクル目までの縮小率による診断能はAUC=0.811、4サイクル目までの縮小率による診断能はAUC=0.827で、治療経過中のdynamic MRIによってpCRを予期可能と報告されていました(TS3-SSBR05-5)。骨軟部領域のMetabolic, Quantitative, and Functionalのセッションでは、大規模症例を対象として、CTにおける筋肉や脂肪の量および吸収値が、サルコペニア、フレイル、骨粗鬆症や死亡率と関連することを示した研究が複数発表されていました。臨床データと組み合わせ、AIを取り入れながら画像検査情報を余すことなく利用することで、日常診療における新たなバイオマーカーが確立されていくものと思われます。

RSNA会期中にカタールで開催されていたサッカーワールドカップ2022のグループ予選ですが、会場でもモニターでライブ視聴可能でした。日本代表が強豪のスペインやドイツに勝利し、日本でもたいへんな盛り上がりであったと思いますが、RSNA会場でも、各国からの参加者が自国チームの得点や勝利に湧いていました。

Metraで会場のマコーミックプレイスへ。駅ホームの階段を上ると会場のグランドコンコース

サッカーワールドカップ2022のライブ中継を視聴するRSNA参加者

 

『RSNA 2022現地レポート:核医学領域を中心に』

東京医科歯科大学 放射線科 横山 幸太先生

御高名な先生方に混じって、若手(卒後11年目)の視点から現地の様子をレポートしたいと思う。字数の都合があるので、今回は核医学領域を中心に、現地参加の様子と合わせて報告したいと思う。

シカゴに入るとマスクをつけている人は殆どおらず、もはやパンデミックは過去のことに感じられる雰囲気であった。演題自体もCOVID-19に関するものが昨年より減って、post COVID-19の演題がいくつか見られる程度であった。会場は、ノーマスクの現地参加者が多数おり、国際学会に来た高揚感が一気に押し寄せきた。オンライン開催に慣れてしいたが、やはり現地開催の良いところは、時間とお金をかけているので、きちんと得るものを得ようという意識が高まるところ、停止出来ないので集中力が上がること、日常臨床やバイト、家庭などの日常のdutyから解放されて集中する時間が持てるところ、気軽にディスカッション出来ること、機器展示で情報を得やすい点である。ただ、会場が離れているので、セッションの合間には慣れない革靴での長距離移動が続き、靴づれを起こしてしまったので、あまり欲張りすぎないことも大事である。合間にcase of the dayを見ながら、知らない人と相談してみたり、携帯アプリからデジタルポスター(DPS)を見たりと、とにかく濃密な4日間(学会は5日間)を過ごすことが出来た。

核医学で多かったテーマはPSMA PET、AI、核医学治療などであった。PSMA PETと核医学治療は、講演やDPSで多数の症例、生理的集積や偶発所見を見ることが出来たのが有意義であった。今もDPSで多数の症例を確認出来るのでおすすめである。個人的には日本で検査数増加が予想されるアミロイドPETの話題が気になっていたが、読影の注意点などの教育的内容が多く、学術的にはあまり新しい情報を得ることは出来なかった。ただ折角なのでCase-based Review of Brain, Head, Neck: PET/CT Workshop (In Conjunction with SNMMI)で講演されたDr. Phillip H Kuに直接質問出来たのでその内容を共有したい。彼はアミロイドPETの初期から20年以上研究に関わっており、今までに1万人以上のアミロイドPETを読影しているとのことである。講演では明らかな陰性、陽性の症例が提示されがちだが、私も少ない経験ではequivocalな症例があって、トレーニングを受けた読影者間でも差があるのではないかと伺ったところ、15%は差が生まれてしまうと報告されているとのことであった。定量評価に関してはSUVRやセンチロイド法が提唱されているが、あくまで研究目的で、日常臨床では視覚評価を優先して行っており、equivocalな症例は陽性、陰性の判定はするが、その旨を脳神経内科医に伝え、他のモダリティ(米国では主にFDG PET)や髄液などのバイオマーカーも参考にするとのことであった。我々の日常の核医学読影と何ら変わらないということと、定量ソフトの準備が整っていなくてもアミロイドPETを開始することに躊躇する必要がないという点は参考になった。
しかし、定量ソフトはあった方が良いので機器展示で情報収集を行った。核種によらず、SUVR算出は殆どのソフトで出来るが、核種により分布が異なるノーマルデータベースと比較してZスコアを算出するのは、対応している核種がソフトによって違う(例えばFlutametamolは対応しているが、Fluorobetapirは対応していないなど)ので、導入予定の製剤と合わせて検討しておく必要はある。残念ながら、現時点でセンチロイド法に対応している展示はなく、国内で松田博史先生が開発しアミクオント®と石井賢二先生のBRAINEER® Model Aくらいである。
AIの支援ソフトに関しては肺結節検出や多発性硬化症の病変検知の他、認知症領域では脳MRIのオートセグメンテーション、萎縮の領域ごと算出、レポーティングが可能なソフトが多数出ていた。5分程度で解析してレポート出来るので、実臨床でも使いやすくなったと感じた。ただ、多くは検査ごとにコストが発生する仕組みで、導入コストは低いが、ソフト購入の予算が年度ごとや節目に限られる施設ではハードルが高いとも感じた。現状、読影システムとの連携が確認出来ているシーメンスのSyngo.viaが使いやすそうであるが、今回リリースされたBayerのCalanticが機能や操作性も優れていそうで気になった。ただ、大手は似た機能のものが多いのに対して、細かいニーズに対応しているものや、他社との違いが目立つ点ではベンチャー企業のソフトも面白そうであった。来年のITEMでも引き続き注目していきたい。
認知症に関連してもう一つ挙げておくとすれば、From the Editors of RADIOLOGY: New Research That Should Impact Your Practice でも取り上げられていたAlzheimer病におけるGlympahtic systemの話題が増えていると感じた。Glympahtic systemは最近提唱された概念で、血管周囲の構造でCSFと間質液の交換を担うシステムでアミロイドのクリアランスにも関連しているとされている。Glympahtic systemの機能低下がアルツハイマーなどの変性疾患と深く関わっていると考えられており、MRI、核医学といずれもGlympahtic systemに関連した研究は今後も増えていくと思われる。

合間に見ていたDPSでは、東大からミシガン大学に留学中の黒川遼先生、真理子先生のご夫妻が昨年に引き続き多数の教育演題を出されていて驚愕した。昨年も見事RadioGraphicsに何本も掲載されていたが、今年もこの中から何本も掲載されるのであろうというクオリティの高さで、圧倒された。同世代の先生の輝かしすぎる活躍は非常に刺激になった。

Case of the dayはclassic case からrare caseなど盛り沢山であったが、時間の都合でせっかくの良質な症例に時間をかけて考えることが出来なかったのが残念である。ただ、知らない人と相談できて中々楽しかった。いかにも出来そうなアメリカ人を信用してmyeloid sarcomaで投稿したら、myeloma(plasmacytoma)だったり、小脳橋角部の石灰化腫瘤(内部に造影効果あり)を、議論するうちにCAPNON、髄膜腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫と迷い、答えを変えて間違えたり(正解はCAPNON)とやはり口に出して議論した方が記憶に残りやすく、有意義であった。来年もまた是非現地参加したいと強く思った次第である。
写真はCase of the dayに群がる人々とWorld cupに群がる人々。後者の方が多い。

2022/05/20(金)

『ISMRM 2022 肝胆膵MRIのトピックス』

山口大学大学院医学系研究科 放射線医学講座 伊東 克能先生

2022 ISMRMはロンドンにてハイブリッド形式で開催されましたが、今回はweb参加しました。肝胆膵領域の教育的講演では、AI関連、スクリーニングと定量化、Flow & perfusionのほか、 Hot Topics in Body MRIでは、時節を反映した話題としてWhat’s New in COVID-19-Related Imagingとして、1) Post-Vaccine COVID-19 Adenopathy: Multidisciplinary Recommendations、2) Multi-Organ Involvement of COVID-19 & Vaccine-Related Conditionsの2講演がありました。腹部領域におけるCOVID-19関連病変についてインパクトのある画像が提示されましたが、MRI検査まで実施される症例はそれほど多くない印象です。今後は、COVID-19後遺症関連のイメージングに関する新たな知見も出てくるかもしれません。

研究発表に関して、いくつか興味深い演題を挙げると、まずMicrostructure imagingと称される新たなパラメータに基づくliver imagingが発表されています。Probing Liver Microstructure in-vivo Using Diffusion-Relaxation Correlation Spectroscopic Imaging (DR-CSI) (3369)では、6 b-valuesと5 echo timesから15の組み合わせを選択して、18分の撮像で、肝内正常構造をcomponent.1-5として画像化するもので(comp.1=肝細胞, comp.2=胆管, comp.3=結合織, comp.4,5=血管)、正常肝とB型肝炎でcomp.1,2,4の比率に違いがあることが示されています。また肝嚢胞がcomp.6として描出されたことが示されています。これらの結果については、どのような生理的組織学的変化に対応するのか、今後の検討が必要と考えられます。またHistological correlates of DR-HIGADOS microstructural metrics in the mouse and human liver (0602)は、Diffusion-Relaxation Hepatic Imaging via Generalised Assessment of DiffusiOn Simulations (DR-HIGADOS)という手法によるliver tumor microstructure imagingに関する発表で、6 b-values, 5 echo timesの組み合わせで17分の撮像を行い、intra-cellular, extra-cellular and vascular-like waterに基づいたintra-cellular signal fraction/diffusivity, cell size, cellularityを画像化するもので、動物実験では、患者腫瘍組織移植モデルにおいて、cell size低下とcellularity上昇が認められています。臨床例では卵巣癌肝転移、悪性黒色腫肝転移でintra-cellular signal fractionが肝細胞癌より高い(線維化を反映)こと、肝細胞癌ではcell sizeがより不均一であることが示されています。臨床例は3例のみの検討であり、今後、腫瘍の組織構築や生物学的悪性度についてさらなる評価検討が必要ですが、新たな指標として興味深い検討といえます。

Advanced Liver Imaging Techniques (Digital poster)では、13C MRSに関する発表がいくつか見られました。Development of 13C MRS measurements of hepatic glutathione production: monitoring oxidative stress in vivoでは、13Cグリシンおよび13Cグルタチオン濃度を測定することで、肝グリシン-グルタチオン合成の定量化の可能性を示しています。グルタチオンは肝臓の内因性抗酸化物質であり、その代謝を定量化することで、酸化ストレスに起因する急性および慢性肝障害の病態解明に役立つものと考えられます。またSimultaneous Assessment of Complementary Metabolic Pathways in Liver Using Co-polarized Hyperpolarized 13C pyruvate and 13C dihydroxyacetone (2293) では、超偏極13Cピルビン酸と13Cジヒドロキシアセトンの同時偏極によりラット肝臓内で両薬剤の代謝物が同時に観測可能であることが示されました。この手法により急性肝障害や糖新生の状態、糖尿病やNAFLDなどの代謝性疾患を非侵襲的に評価できることが期待されます。これらの肝機能とくに代謝に関するMRS評価も今後、慢性肝疾患の病態解明、早期診断や治療方針の決定など臨床的に重要な役割を担ってくるものと思われます。

スタンフォードブリッジ:プレミアリーグ、チェルシーFCのホームスタジアム

タワーブリッジ:テムズ川に架かる跳開橋で、船舶航行時には開閉のため通行止めとなる

『ISMRM 2022での新たな体験』

千葉大学大学院医学研究院画像診断・放射線腫瘍学 横田 元先生

今年のISMRMはLondon開催であった。引き続きCOVID-19やウクライナ情勢が不透明であり、日本、中国、韓国といったアジアからの参加者は多くがweb参加であったようだ。我々の施設からの採択演題も、当初は現地でのセッションが割り当てられていたが、後日webでのプレゼンに変更可能となった。ISMRMのvirtual meeting siteは充実しており、セッションをリアルタイム視聴できるのはもちろん、教育講演などはvideoとして自由な時間に視聴が可能である。Londonは時差が8時間であり、セッションは日本時間16時から25時程度に開催されるため、日常臨床をしながらも比較的参加しやすかった。あえて問題をいうならば、non-memberでweb参加は1,660米ドルであり、学会開催時の為替レートで216,630円と高額であった。1年前から20%近く円安が進んでいることが大きく影響した。物価上昇が大きな話題になっているが、研究活動にもインフレの波が押し寄せているようだ。賃金は上がっていないので、スタグフレーションと言うのだろうか…。

世界経済を肌に感じつつ、筆者はOnline Gather Town Pitchesというセッションでweb発表を行った。このセッションは、学会会場を模したwebスペースにログインし、アバターを操作しつつカメラとマイクを使用してコミュニケーションを行うというものだ。アバターが隣同士になると会話が可能となる。特定のスペースに行くと、そのスペース内でグループでの会話が可能となる。「これがメタバースというやつか」と筆者は思ったのだが、オンラインゲームなどをやりなれた方には当たり前のことなのかもしれない。一つ残念だったのは、オリエンテーションが不十分であり、細かい機能が分かりづらいことだ。折角の座長からの質問に、どこにアバターを移動させれば会話ができるか分からず、気まずい無言状態が続くような場面が見受けられた。ただ、筆者個人は現地でのポスター発表と同様の感覚を得ることができ、新しい学会の形を感じさせるものであったため、今後の発展を期待したい。

添付した画像はQ and Aセッションの画面で、座長が事前に登録したビデオを流し、質疑口頭を行う。その後、右端に映っているような各演題に割り当てられたブースに移動し、来訪者とディスカッションを行う。筆者のセッションでは、三重大学の佐久間教授が座長を務めて下さったのだが、佐久間教授が各演題に質問をし、その後に各ブースにも廻り、セッションを大いに盛り上げて下さった。筆者は、Time estimation from stroke onset with diffusion-relaxation matrix-based T2 and ADC simultaneous mapping [program number: 4177]という演題を発表した。diffusion-relaxation matrix(DRM)はmulti-echoの拡散強調像で、ADC mapとT2 mapを同時に得ることができるシークエンスである。脳梗塞の発症後経過時間は治療方針決定に必要不可欠な情報であるが、起床時発症の場合や、バイスタンダーがいない場合は発症時間が分からない。通常の拡散強調像では、ADC値から梗塞が急性期か亜急性期かの判断は可能であるが、発症早期の経過時間は判断困難である。一方、T2値は発症後に時間と共に上昇するとされている。DRMは、通常の拡散強調像と同様に梗塞の有無を診断でき、DRMから得られたT2値は発症後経過時間と強く相関していた。また、4.5時間、6時間、16時間といった血栓溶解療法、血栓回収療法の適応時間内かどうかを、高い精度で判別することが可能であった。DRMは1つのシークエンスで梗塞の診断と経過時間推定が可能で、日常臨床に手軽に導入できると思われる。当施設からは、inhomogeneous magnetization transfer(ihMT)を利用したミエリン画像を脊髄、腕神経叢で試みた研究[program number: 2973, 4530, 4538]、MRIにaudiovisual systemが患者の不安感、造影剤副作用を減少することを示した研究[program number: 4736, 5075]の発表を行った。ihMTは多発性硬化症の脊髄病変を通常のT2強調像よりも高いコントラストで描出することが可能で、再髄鞘化が起きT2強調像では不明瞭化した病変も描出することができ、臨床現場からも高い評価を得ている。

文面の都合上、当施設からの発表を紹介するに留まってしまったが、様々な刺激的な発表がなされていた。参加登録した会のproceedingは未来永劫参照できるという大きなメリットがあり、教育講演の充実化も進んでいる。年々参加したい会に進化していると感じる。

 

『ISMRM 2022 脳神経領域のトピックス』

順天堂大学放射線科 鎌形 康司先生

ISMRM 2022はハイブリッド開催で、筆者はWEB参加のみであったが、参加した同僚に聞くとオンサイトも盛況であったとのことである。本会では、WEB参加の発表者のために新たに作られたOnline Gather.town Pitchesという形式での発表が新鮮であった。まるでロールプレイングゲームのように、自身のアバター(8ビット?のキャラクター)を操り仮想の学会場を歩き回り、他の参加者に近付くと自動的にビデオ通話が開始され実際に討論ができるといった具合である。自らの発表ブースも用意され、興味を持った参加者複数人での討論が可能であり、非常に興味深い発表形式であった。こうなると現地に行かなくては良いのでは?と思うこともあるが、やはりWEB参加だと日常業務との並行作業になる点が難しい点である。

今回のISMRMでは、我が順天堂大学放射線科のビッグボスである青木茂樹教授が栄誉あるFellowに選出された。拡散MRIの臨床応用や拡散テンソルの可視化ソフトの開発など、神経放射線医学における先駆的な貢献を評価されてのことである。加えて、昨年度まで順天堂大学で研修をしていた藤田翔平先生(現東京大学放射線科)がJunior Fellowに選出されると共にSumma Cum Laude Merit Awardを二つ受賞した(私は彼ほど優秀な後輩を知らない)。どちらも学会のポータルサイト(https://www.ismrm.org/22m/)から確認できるので、是非ご覧いただきたい。

さて、脳神経領域ではNeurofluidsというキーワードを冠したセッションが数多くみられ、近年のトピックスの一つと思われる(Neurofluids: From Macro to Micro、Quantitative Neuroimaging & Neurofluids I〜Ⅳ、Gray Matter & Neurofluids I/Ⅱ、New Look of Neurofluids Physiology I/Ⅱなど)。その中でも特にNeurofluids: From Macro to Microのセッションの演題番号0326が印象的であった。本演題では7T-MRIを用いてintravoxel incoherent motion (IVIM)により拡大血管周囲腔内の流れを評価しようという試みを行っている。IVIMで評価される従来の2成分(microvascularとparenchymal)の間に中間成分(fint)が同定され、間質液(ISF)の増加を反映すると考えられている(Wong et al., 2020)が、本演題では拡大血管周囲腔内のfintおよび中間成分の拡散率を示すDintが血管周囲腔の周りの脳実質に比べて上昇することが示されている。血管周囲腔内の拡散を評価しうる手法として興味深く、今後の疾患病態評価への期待が高まる。

かくいう私もQuantitative Neuroimaging & Neurofluids Ⅱのセッションで、アルツハイマー病を対象に血管周囲腔体積、血管周囲腔周囲の拡散率(ALPS index (Taoka et al., 2017))、脳間質の自由水(free water corrected DTI(Pasternak et al., 2009)によって算出)の変化を測定し、これらの指標と脳脊髄液アミロイドベータや認知機能スコアとの相関関係を評価した演題を発表した(演題番号3589)。Online Gather.town Pitchesでの発表であったが、興味を持った研究者が何人か質問に来てくれたのが嬉しかった。

最後にもう一つ興味深い演題を紹介したいと思う。拡散MRIを用いた振動器を必要としないvirtual MR elastographyによって乳児の脳深部灰白質を評価したという演題である(演題番号3595)。彼らは拡散MRIに基づいた仮想せん断剛性を算出し、脳乳児においては深部灰白質の中でも淡蒼球が最も硬い領域であることを報告している。脳の硬さは種々の認知症や脱髄疾患において変化していることが知られているが(Murphy et al., 2019)、MRI elastographyには専用の振動器が必要である点が普及を妨げていた。振動器なしに脳の硬さを推定することができれば非常に興味深い。

今年のISMRMを振り返るとやはりオンサイト参加が懐かしく感じた。オンサイト参加の記憶を呼び起こすため見つけたISMRM2016(シンガポール開催)の写真(1、2)を最後にお示しして、筆を置く。

写真1 ISMRM2016にて、筆者(左)と量子医科学研究所・主幹研究員の立花泰彦先生(右)。

写真2 シンガポールの夜景(マリーナベイサンズ)

 

参考文献

Murphy, M.C., Huston, J., 3rd, Ehman, R.L., 2019. MR elastography of the brain and its application in neurological diseases. NeuroImage 187, 176-183.

Pasternak, O., Sochen, N., Gur, Y., Intrator, N., Assaf, Y., 2009. Free water elimination and mapping from diffusion MRI. Magnetic resonance in medicine 62, 717-730.

Taoka, T., Masutani, Y., Kawai, H., Nakane, T., Matsuoka, K., Yasuno, F., Kishimoto, T., Naganawa, S., 2017. Evaluation of glymphatic system activity with the diffusion MR technique: diffusion tensor image analysis along the perivascular space (DTI-ALPS) in Alzheimer’s disease cases. Japanese journal of radiology 35, 172-178.

Wong, S.M., Backes, W.H., Drenthen, G.S., Zhang, C.E., Voorter, P.H.M., Staals, J., van Oostenbrugge, R.J., Jansen, J.F.A., 2020. Spectral Diffusion Analysis of Intravoxel Incoherent Motion MRI in Cerebral Small Vessel Disease. Journal of magnetic resonance imaging : JMRI 51, 1170-1180.

2021/12/13(月)

『現地の様子、お伝えします その1』

社会医療法人愛仁会 高槻病院 イメージングリサーチセンター 高橋 哲先生

2019年以来の2年ぶりのシカゴです。
昨年行けなかった理由は説明するまでもありませんが、今年来ている理由は説明する必要があるかもしれません。理由は”とあるCT”が発表されるのでどうしても見たかったこと、そして家族、病院、市役所、厚生労働省、外務省そして航空会社もふくめ水際対策に携わっておられる全ての方々の、多大なご協力をいただけたこと、です。
「ワクチン接種者のビジネス往来は帰国後3日間の待機へ」という文言が報道で流れた時には、Educational Exhibitとはいえ一応演題を出している私は、もしかして学会に行けるのか?と一瞬思いました。しかしその手続きの説明をHPで読んで、読むのを途中で辞めてしまいました。非常に厳密であり、このような手続きを病院にお願いするのはさすがに、と思ったからです。しかし、病院長と別件でお話をした時ダメ元で「2週間休んだら、ダメですよね」と伺うと、「3日間になったし、今、実際に○○先生イタリアに行っているよ」と意外なコメントをいただいたのです。「しまった!そんなことなら、諦めずにもっと早く相談しておけば良かった」と思ったのですが、やれるだけやってみようと、それから書類を一気に作成し、PCR検査とか、待機の態勢の準備を行いました。当院の事務部管理科の方が○○先生で一度経験済みであったことも、そして監督官庁である厚労省のご担当の方も大変協力的に様々なアドバイスや指導をしてくださったお陰で、何とか出発可能となりました。関係各位に感謝しかございません。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。どのような手続きが必要で、何に気をつけなければならないか、いつか共有したいとも思います。
RSNA側の受入体制ですが、これも色々考えられていました。”Safe Expo”というサイトへ、まずワクチン接種証明書の画像キャプチャを送り、承認されるとワクチン接種済みで会場に入っても良いという証明が来ます。これがないと名札がもらえません。私は、試しにいわゆる英文併記のワクチンパスポートでなく、病院からいただいた日本語のワクチン接種証明書を送ってみましたが、これでも承認されました。
とりあえず土曜日朝に到着したため、早速、名札を受けとりに行ってみました。シャトルバスで会場に向かいますが、これまでと異なりバス停が統合化され、6コースでそれぞれほぼ2カ所しか停まらなくなっています。「ここからバスに乗れたはず」と適当に歩いてもバス停が見つからず、随分と探しました。バスに乗る時にはワクチン接種証明など一切求められず、マスク着用のみ求められます。会場に到着すると、Registrationエリアに入るためには、Safe Expoから受け取った「ワクチン接種済証明」を提示する必要がありました。あとは通常の手順で登録済みのバーコードとパスポートを見せて、名札を受け取れました。例年よりかなり手前の場所、展示や学会会場へ入るエスカレーターの手前で名札の有無のチェックが行われ、このチェックは例年以上に厳密でしたが、名札さえ入手あれば自由に動き回れます。
会場内の外れの1室には、COVID19検査室が設けられています。帰国時のCOVID19陰性確認に使えるもので、Safe Expoサイトでパスポート番号などを登録すると、COVID19 TESTINGという2次元バーコードが送られてきます。これを示せば何度でも有料で(LAMP検査1回150ドル、抗原テスト1回50ドル)で受けられます。LAMP検査は日本帰国時72時間以内の陰性証明として使えるため、ここでの検査を予約しておきました。
このように、新型コロナの中、何とかこの巨大学会を運営しようという様々な工夫がなされていました。今回の米国入国に際しては、日本出発時にワクチンパスポートとPCR陰性証明が求められ、航空会社のチェックインの際で提示と確認がなされました。またCDCに対する宣誓書の提出も、国際線搭乗手続き時に求められました。しかし、ここで出発時の手続きとして完了してしまうと、米国入国に際しては、出国時に確認されているからと一切確認はなく、パスポートコントロールの待ち時間0分で、1分後には手荷物受けとりに向かい、5分後にはタクシー乗り場に着いていました。学会会場でもSafe Expoでのワクチンパスポート登録があり、一度チェック済みとなれば、後は普段通り、例年通りの名札チェックが少し手前で行われただけでした。街中も、日中は多くの方がマスクをして歩いていましたが、夜は6割程度に減り、あとの方はマスクもなく、飲食店も(外から見る限り)だれもマスクなしで楽しげに飲み食い騒いでいました。日本よりはるかに感染者も死者も多い国での風景です。
翻って、米国への到着当日にこの文章を書いている私は、日本に帰ってからの厳重な手続きと時間に、今から戦々恐々としています。考え方、国民性の違いでしょうが、これが国の勢い・活気につながっている気がしてなりません。

 

 

『現地の様子、お伝えします その2』

社会医療法人愛仁会 高槻病院 イメージングリサーチセンター 高橋 哲先生

物事が動くときは、落ち着いてから記録に残した方が良い場合と、リアルタイムに記録を残した方が良い場合とがあると思います。折角ですので、リアルタイムだった記録を、後から見ていただければ、と思います。
本日11月30日、オミクロン株に対する水際対策強化のため外国人の日本入国が停止された、と発表されました。これは意外なインパクトで、学会会場で友人に会うたびに「日本は国境閉じたらしいね?帰れるの?」と質問されました。「その1」でご紹介した「ワクチン接種者のビジネス往来では帰国後3日間の待機」や待機期間の14日間から10日間への短縮、も全て停止となり、他の方への迷惑を最小限にする目論みはすべて吹っ飛んでしまいました。
厚労省が発表する「水際対策強化に係る新たな措置(20)」(11月30日更新)は、緩和措置である「水際対策強化に係る新たな措置(18)(19)を停止する形で、「水際対策強化に係る新たな措置(17)」に戻ることを意味します。発令形式上やむを得ないのですが複雑で、結局何をしていいのか、いけないのか、検疫が用意する施設に入る必要があるのかないのか、一読では理解できません。その上、オミクロン株が検出された国が次々と追加されていくため、まさに日々刻々と状況が変わり空港のチェックイン担当者も困惑、という状況でした。
このような中であえて物理的に参加した学会です。ヴァーチャルでは分からない「実感」を紹介します。
会場参加登録されている人数は例年の4割強との噂でしたが、実感として、機器展示会場はもう少し例年に近い感じでした。定期的に参加されておられた先生でしたら、2019年までで既にお感じになられていると思いますが、機器展示の規模が少しずつ小さくなっています。例年、主要機器メーカーは各モダリティで多くのモックアップ機器を展示しますが、今回はその展示機器数がさらに少なくなっている印象でした。その一方で、セッション会場、教育展示会場はガラガラで、例年の1割くらいの感覚です。Scientific, Educational contentsはバーチャルやオンデマンドなどでよい、学会の目的は機器展示、という明瞭な参加者の感性を感じました。
さて新製品ですが、個別メーカー、個別機種のコメント最小限としますが、あきらかなブレークススルー製品は、SIEMENSのフォトンカウンティングCTであるNAEOTOM Alphaぐらいだったと思います。それ以外はCT、MRIについては、広い意味での普及機を発表したメーカーが多かったと感じました。単純な廉価版ではなく、例えばヘリウムの使用量が少ないとか、不慣れな技師でも正しくポジショニングできるようカメラで誘導する、撮像の細かなパラメータの入力なしに、ほぼワンボタンで撮像が開始できる、といった機器が各社から出ていたことに興味深く感じました。CTやMRIは成熟し、いかに簡単に、誰でも、どこでも一定の質の検査を行うことができるか、標準化・底上げに重きがおかれるようになっています。
一方で様々な技術が進歩し、ベンチャーから大企業まで勢いを感じたのが、AI showcaseのエリアです。このご時世ですので、胸部レントゲン写真、胸部CTそして乳腺が主要なターゲットでした。個人的にはCT画像のDICOM データからサイノグラムをつくり、ノイズ除去をするAIは、ベンダーに依存せずあらゆるCT機器メーカーの画像ノイズ除去を行い、低被ばく画像を謳っていました。最近やっとAI画像再構成ができるCT機器が導入された施設の私としては、大変興味深く感じました。かつてCTでもMRIでも、自社の機器上で、自社のワークステーション上でしか処理できない様々な画像解析・処理がありましたが、多くはDICOM画像を処理する汎用型ワークステーションに置き換わっていきました。低線量画像でのノイズ除去がCT機器上でできれば、もちろん簡単で理想的ですが、最新鋭でない機器を有効利用するという点でとても興味深く感じました。
個別の項目は、バーチャル機器展示の方でも経験できるので、最後に会場を見渡しての感想です。
日本の影がまた薄くなりました。
何よりも、これまで展示会場で最も大きなスペースを占めていた企業の一つである日本企業がありませんでした。AI showcaseのエリアでも、日系企業を見つけることができませんでした。本当はあったのかもしれませんが、人だかりのある企業は、上述のCT画像のノイズ除去を行う会社も韓国ベンチャーであり、ほぼ韓国と中国のベンチャーばかりでした。会場でも若い東アジア人は多くいました。でも聞こえる(聞きとれる)のは韓国語と中国語(っぽい言語)のみで、日本語は企業の方以外、全く聞こえませんでした。帰国の前日に会場で、韓国の著明な先生にばったりお会いし、「日本人を見たの初めてだよ」と言われました。例年の1割程度とのことですが韓国からは約20名の放射線科医が来ているとのこと。
もっとも海外渡航したために、当初の4日目(翌月曜日)からの特定行動による読影勤務から、一気に2週間自宅待機になったため、周囲に膨大なご迷惑をかけ、明らかに「行かないのが正解」だったと思いますが、日本の影の薄さを感じ寂しい気持ちで帰国の途につくことになりました。2週間の待機を考えて憂鬱なせいでしょうが・・・


教育展示会場はまばら(でも比較的多いかも)


フォトンカウンティングCT発表の瞬間


フォトンカウンティングCTは人だかり

『RSNA 2021 ONLINE & ON-DEMANDでの腹部領域のトピックス』

岐阜大学 放射線科 野田佳史先生

現地シカゴでのRSNA参加は2019年が最後であり、ここ2年はオンライン参加となっている。2019年当時はボストンのMassachusetts General Hospital (MGH)に留学中であり、ボストン-シカゴ間のわずか1時間の時差に、例年の狂いに狂った体内時計とは全く異なる快適さを覚えていた。また、半年以上振りに会う日本の仲間との再会を楽しみに、普段とは違う高揚感を抱いていたことを覚えている。
COVID-19の感染状況であるが、RSNAの演題採択通知を受け取った初夏の時点で少し下火であったため、これならば…、とも思ったが帰国後の隔離期間短縮が期待できなかったため現地参加を断念した。夏場の感染爆発を経て、現在(2021年12月3日)の日本は季節性感冒患者より圧倒的にCOVID-19感染者が少ないのではとも思わせる状況である。しかしお隣韓国やヨーロッパ諸国では過去最高の感染者数を記録し、新たな変異株も確認されるなど、世界の情勢は日本と全く異なる。そんな中、RSNAの2週間前には、WhatsApp(日本でいうLINE)に1通の通知が来た。留学当時一緒に研究をしていたドイツ人のResearch FellowがRSNA後、ボストンに寄るとのことで(おいおい、、今のドイツから行くのはやめておいた方がいいのでは。。)、Dinnerのお誘いである。まだボストンにいるFellow達は当然参加の意思を表明するが、私は行けないのでそのやりとりを恨めしそうに眺めるだけであった。直接会うことは叶わなくとも、学会のプログラムから彼らの名前を見つけると、みんな頑張っているなと刺激を受ける。現地参加をしているボスや仲間達の勇姿も、暗くそして小さい画面ながらも確認でき、懐かしく思う。彼らの研究成果も含め、腹部領域、とりわけ肝胆膵領域のOral sessionを中心に確認したが、筆者自身の研究内容や関心から報告する内容に偏りがあることを予めご了承いただきたい。
やはりと言うべきか、AI、Deep Learning、Radiomicsといった昨今の放射線学会でよく目にする単語を含む演題が目立つ。数年前のRSNAでは主流とも思えたQuantitative ImagingやTexture Analysisはほとんど見られず、Gastrointestinal (Quantitative Imaging Techniques) (Session ID: SSGI11)のセッションは組まれているものの、5演題中4演題に前述の3つのキーワードのいずれかを含んでいる。Texture Analysisは今やほとんどがRadiomicsに置き換わっており、今後しばらくはこの傾向が続くのだろう。ただし、我々の病院も含め一介の医師が高度なAIやDeep Learningを簡単に使いこなすことは難しく、実臨床画像から得られる新たな知見にまだ目が向いてしまう。同じDeep Learningでも画像再構成ソフトとして市販されている技術を臨床導入し、その有用性を検証した演題も比較的多く見られ、実際に日々これを使用している筆者としても興味が湧いた(Session ID: SPR-GI-22A, SPR-GI-40A, SPR-GI-23A他)。その他、定量指標としてDual-energy CTデータから簡便に得られるヨード密度値(iodine concentration; IC)にも注目したい。Radiomicsに関する研究でも大いに言えることだが、得られた結果が他の患者群でも使用できるか、いわゆる”Validation”が定量指標においては重要である。我々も過去に膵癌のヨード密度値と化学療法治療効果との関連について報告したことがあるが、この研究のLimitationの1つに、異なるDual-energy CT装置で検討を行っていないことが挙げられる。Dual-energy技術には大きく分けて3つの手法が知られているが、この3つのCT装置全てでDual-energy撮影をされている“同一患者”を収集すること自体が極めて困難である。しかし、合計23台のCT装置を有するMGHではなんとこれができてしまう。門脈相像において肝臓、膵臓、胆嚢、腎臓、大動脈、門脈といった腹部臓器や大血管のヨード密度値を計測すると、腎臓と大動脈以外でCT装置間に有意差を認めた。しかし、これらの計測部位の総ヨード密度値で標準化したNICALLでは肝臓では誤差が残存するものの、膵臓も含め全体として誤差が改善した (Session ID: SSGI12-5)。この非常に有益な情報をもたらしてくれる本研究は、あのボストンに寄るというドイツ人Fellowによるものである。
以上、本稿では誌面に限りがあるためほんの一部分しか紹介できていない。実際、これからオンデマンドでチェックする予定の演題がまだたくさん残っている。会期が終了した後も自分のペースで演題を確認できるのはWebならではであり、今後もWebもしくはHybrid開催のリクエストは多いだろう。ただし、現地参加してこそ得られるものも数多いと感じるため、個人的には現地に足を運びたい。WhatsAppのグループトーク内で“I’m in!!”とDinnerに行く意思表示ができる日を心待ちにしている。

写真:Refresher Course (Pancreatic Tumor Imaging)の一コマ。PresenterはMGH留学中のボス。私の書いた論文を紹介してくれている。

写真: Research Fellow達とのDinner。COVID-19感染が増えつつあり、帰国前に集まれるのはこれが最後かもねと言っていた頃。ちなみに左の前から2番目が文中に登場するドイツ人の仲間。

『RSNA2021 on Web レポート』

山形大学医学部放射線医学講座 鹿戸将史先生

11月の終わりから12月の初めにかけては、例年次年度の人事に向けて、いろいろと考えなくてはならないことがとても多く、とても気忙しい。例年の北米放射線学会(以下、RSNA)はそんな医局運営のイヤなソワソワ感の中、開催されている感じがする。そして、この時期は身体が寒さにまだ慣れておらず、体調も崩しがち。一昨年は、RSNAに参加直前で体調を崩し、あえなく断念。昨年は、ご存知の通り、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により完全オンライン開催。そして、今年のRSNAは2年ぶりの現地開催となったものの、ハイブリット開催。私はやはり欧米のコロナ感染の動向が気掛かりで、行きたい気持ちはあったのだが、オンライン参加を選択せざるを得なかった。
RSNAでリリースされる新技術や機器が多いので、どうしても注目せざるを得ない。昨年同様に、主なトピックはAIとコロナといった様相。それもそのはず、AIはもはや様々な分野で導入されており、医療だけの話ではない。新たなモダリティと言えなくもない。また、コロナも発生からほぼ2年が経とうとしている。これを執筆している2021年12月初めは、国内のコロナ感染も下火になったものの、3、4ヶ月前を遡れば、オリンピック下で大流行しており医療従事者は毎日緊迫した状況下にあった。新たな変異株(オミクロン株)が南アフリカで発見され、連日トップで報道されている。そして、いつ新たな感染の波が押し寄せるか世界は戦々恐々としている。これらを考えれば、当分の間はコロナが話題の中心になることは致し方ない。そんな今年のRSNAで聴いたセッションのうち、いくつかを紹介する。
1.  Cardiovascular Imaging Manifestations of COVID-19: What the Radiologist Needs to Know
COVID-19は肺炎だけでなく、微小血栓を形成しさまざまな合併症を引き起こす。本講演はCOVID-19に起因する血管病変について、脳血管障害、肺動脈血栓塞栓症、冠動脈疾患、心筋炎などについて放射線科医が知っておくべき知見や超音波、CTおよびMRIの画像所見について解説された。
2. Imaging Gliomas: The Good, Bad and Ugly
脳腫瘍の画像診断に関する教育講演。病理組織、診断におけるキー所見、画像フォロー、Radiomicsなどについて詳説された。中でも2021年に改訂された脳腫瘍のWHO分類におけるグリオーマの分類の変更点について簡潔かつ分かりやすく解説されている。
3. PET/MR Update 2021 
最新のPET/MRに関するセッション。残念ながら私が所属する施設にはPET/MRはないので、実際の画像を見てみたいのと同時に、臨床にどれほど寄与できるか興味があった。中枢神経系や頭頸部領域では、詳細な形態と代謝の情報がOne stopで得られる利点があるのは、そうだなと思っていたが、肺癌などのステージングなどかなり正確に行えるのは興味深かった。問題はウチのような施設に導入した時の、検査スループットが問題かなと感じた。
4. Physical Characteristics Of A New Photon-counting Detector CT: Comparison Of The Spatial Resolution With That On Conventional Energy-integrated Detector CT Scans
話題のPhoton-counting CT(PCT)の演題。日本からの報告。PCTは被曝低減を図りながら、従来よりかなり高分解能な画像が取得出来ることが期待されている。実際の画像を見てみたくて期待していた。0.3mmのファントムが非常に明瞭に描出されていた。その他、臨床使用した画像に関する報告もいくつかあったが、提示されている画像はまだ少なめといった感じ。問題は価格だと思う。Dual-energy CTの時もそうだったように、価格が落ち着くまで時間を要するかもしれない。
オンラインの学会参加は長距離の移動の手間もなく、非常に便利なものである。コロナが生み出した、怪我の功名のようなものかもしれない。この方法は今後定着するだろう。一方、日本時間では夜遅くや早朝のセッションがほとんどのため、オンデマンド配信されていないセッションは仕事の都合や起きられなかったりして(後者がほとんどだが)、聞き逃したものもある。現地参加だと当地の時間で参加できるので、聴きたいものを聴き逃さないという点では現地参加の方が良いのかもしれない。開催前は国内のコロナの状況が落ち着いて、シカゴに行ってもよかったかなと思ったが、開催中に新型株・オミクロン株が発生し、外国人の入国が規制された。そして、国内でもオミクロン株が発見された。海外学会に安心して現地に赴くことができるようになるのもまだ先なのかなと思うのだった。

 

 

『RSNA2021のvirtual参加記』

埼玉医科大学国際医療センター 画像診断科 馬場康貴先生

最初に
本年も昨年に引き続き世界的なCoronavirus感染拡大の折に開かれたRSNA2021であったが、直近の本邦及び米国では
感染者数の軽減もあり現地開催であった。しかしながら、直前のOmicron株の広がりで再度出入国が危ぶまれる状況であり混沌とした状況に変わりはなかった(2021年12月初旬時点)。以前の盛り上がりを伴った来年度開催を祈念してvirtual参加であるが本年度の発表から個人的に興味のあるテーマにて報告させていただく。
Interventional Radiology
Interventional Pre-recorded Scientific Paper: Development Of A Computed Tomography-based Radiomics Nomogram For Prediction Of Transarterial Chemoembolization Refractoriness In Hepatocellular Carcinoma
Session ID: SPR-IR-5A
Speaker(s):Xiangke Niu, MD,MS
目的:TACE不応の治療前予測のために、コンピューター断層撮影(CT)ベースのラジオミクスノモグラムを開発および検証を行う。
方法と材料:この後ろ向き研究は、2009年3月から2016年3月までTACEを繰り返し受けた臨床的/病理学的にHCCが確認された患者のトレーニングデータセット(n = 137)と外部検証データセット(n = 81)で構成された。動脈相の術前CT画像から遡及的に抽出。前処理ラジオミクスシグネチャは、最小絶対収縮および選択演算子Cox回帰分析を使用して生成された。臨床的危険因子とラジオミクスシグネチャを組み込んだCTベースのラジオミクスノモグラムが作成され、検量線と決定曲線分析によって検証された。 CTベースのラジオミクスノモグラムの有用性は、カプランマイヤー曲線分析によって評価された。一致指数を使用して、ラジオミクスノモグラムと他の4つのモデルとの直接比較を行った。すべての分析は、個々の予後または診断ステートメントの多変数予測モデルの透過的なレポートに従って実施された。
結果:TACEセッション数の中央値は両方で4(範囲、3〜7)であった。ラジオミクスシグネチャを構築するために、869の候補特徴量から8つのラジオミクス特徴量が選択された。 CTベースのラジオミクスノモグラムには、ラジオミクススコア(ハザード比= 3.9、95%信頼区間:3.1-8.8、P <0.001)と4つの臨床的要因が含まれ、患者を高リスク(スコア> 3.5)と低リスク(スコア≤3.5)において予後が著しく異なった(全生存期間:12.3カ月対23.6カ月、P <0.001)。ノモグラムの精度は、他の4つのモデルよりもかなり高かった。検量線と決定曲線の分析により、臨床診療におけるCTベースのラジオミクスノモグラムの有用性が実証された。
結論:新しく構築されたCTベースのラジオミクスノモグラムは、TACE不応性の治療前予測に使用でき、さらなるTACE治療に関する意思決定のためのより良い指針を提供する可能性がある。
臨床的関連性:この研究の主な知見は、コンピューター断層撮影(CT)ベースのラジオミクスノモグラムを使用して、TACEの最初のセッションの前に患者の不応期を個別に予測できることである。CTベースのラジオミクスノモグラムは、TACEによって繰り返し治療される患者の臨床的意思決定を改善し、最終的にはこれらの患者の全生存期間を改善する機会を提供する可能性がある。
コメント:個人的にTACE不能の定義があまり明確でない現在の状況において、一度開始したTACEを繰り返すことが予後改善に意味があるのかの臨床的疑問を人工知能に検証させた点が非常に興味深い。我々も過去に再起型ニューラルネットワークを用いた予後予測の発表を行ったが、特徴量は画像を用いずに一回目のTACEの効果判定を含めたTab dataのみであった。本発表のTACEを行う前に予後予測可能な点は少し違和感を覚えるが、再度画像的特徴量を盛り込んだ検証を行いたいと考えた。

Machine Learning-based Radiomic Features On Pre-ablation MRI As Predictors Of Pathologic Response In Patients With Hepatocellular Carcinoma (HCC) Who Underwent Hepatic Transplant
Session ID: SDP-IR-21
Speakers(s): Azadeh Tabari
目的:この研究の目的は、アブレーション前のMRIラジオミクスを使用して、HCC患者のアブレーション療法に対する反応を予測する機械学習モデルを開発することである。
方法と材料:後ろ向き研究はIRBによって承認された。 2005年から2015年にかけて、肝移植を受けたHCC患者97人が特定された。アブレーション前の3か月以内に実行された造影MRIを使用して、合計112の放射線学的特徴(形状、一次、およびテクスチャ)が各腫瘍から抽出された。病理学的反応は肝移植標本で決定された。データセットは、20%のホールドアウト検証に基づいて、トレーニングコホートとテストコホートにランダムに分割された。カーネルナイーブベイズモデルは、特徴選択に最小冗長最大関連性(mRMR)を使用して開発した。最終モデルには、mRMRに基づく上位46の機能が含まれ、パフォーマンスは20%ホールドアウト検証コホートでテストされた。単変量ロジスティック回帰(UVR)およびROC分析を使用して、治療反応を予測する際の統計的に有意な特徴を決定した。
結果:97人の患者(117の腫瘍、31(32%)のマイクロ波焼灼、66(68%)の高周波焼灼)が含まれていた。末期肝疾患(MELD)スコアの平均モデルは10.5±3だった。平均追跡期間は336.2±179日だった。患者の38%は、移植時の病理学レビューで完全な病理学的反応(CR)を示さなかった。 2つの一次および2つのGLRM機能は、UVR分析での不完全な病理学的反応と関連していた(P <0.05)。上位46の機械学習機能を含む最終的な機械学習モデルは、不完全な病理学的応答を予測し、最高のAUCは0.77、感度は100%、特異度は69%であった。
結論:機械学習でMRIラジオミクスを使用すると、肝移植を受けたHCC患者のアブレーション療法に対する病理学的反応を予測する能力が向上する可能性がある。
臨床的関連性:機械学習ベースのラジオミクス機能分析は、予測モデルを提供し、肝移植にリストされたHCC患者のアブレーション前のMRI画像と病理学的反応との関連を非侵襲的に調査できる。これにより、患者の治療をパーソナライズし、アブレーション療法の恩恵を受ける人を予測することができる。
コメント:前記と同様に個別化治療の流れはテクニックだけに陥りがちなInterventional Radiologyにおいても主流となりつつあることを感じた。Texture解析の多数の特徴量を次元削減することでなく本当に意味のある特徴量のみの抽出に
Minimum-Redundancy-Maximum-Relevance (mRMR)という方法を用いる点が興味深く、早速実装してみたいと思われた。

 

『RSNA2021 Topics:心臓領域』

長崎大学病院 放射線科 末吉英純先生

2021 RSNAは昨年に続き、新型コロナウイルスの影響により、webにての参加となりました。今回は、”(Session ID: SSCA04)Cardiac Imaging in the COVID Pandemic/Artificial Intelligence in Coronary CT Imaging”からの演題をいくつか紹介したいと思います。このセッションでは新型コロナウイルスとCoronary CT ImagingにおけるAIに関する演題を扱っており、今、非常にHotなテーマと思います。演題の要旨を記載しますが、詳しくは原文の抄録を参照ください。
まずはCOVID-19関連の演題を2題紹介します。
Session ID: SSCA04-1. Cardiac MRI In Patients With Prolonged Cardiorespiratory Symptoms After Uncomplicated COVID-19 Infection.
要旨: COVID-19感染後に慢性COVID-19症候群(CCS)を発症し,疲労感や労作性呼吸困難などの症状を呈する症例が増えている。本研究の目的は、これまで健康であった人がこのような不定愁訴を起こす根本的な原因として、CCSと心筋の損傷および炎症との関係を心臓MRIで探ることである。結論としてCOVID-19感染後にCCS症状が持続している者において、心臓MRIでactiveな心筋炎の兆候は認められなかった。それ故、心臓MRIをCCSのスクリーニングツールとして使用すべきとは考えられない。
Session ID: SSCA04-4. Evaluation For Potential Cardiac Involvement In Athletes Recovering From COVID-19 Infection With Cardiac Magnetic Resonance Imaging- Should Cardiac Magnetic Resonance Imaging Be Used As A Screening Tool?
要旨:心筋炎はスポーツ選手の心臓突然死の原因として知られており、COVID-19感染から回復した大学スポーツ選手には、心臓MRIで検出可能な心血管系の病変がある可能性が示されている。しかし,COVID-19感染から回復した健康なアスリートが,競技に復帰する前に心臓MRIでスクリーニングを行うことの有用性については,まだコンセンサスが得られていない.この研究の目的は、COVID-19感染から回復した大学選手の集団における心臓病変の心臓MRI所見の有病率を説明することである。結論としてCOVID-19感染から回復した学生アスリートにおいて、急性心筋炎(1.8%)および急性心膜炎(0.9%)の有病率は低かった。 それ故、COVID-19に感染した学生スポーツ選手に心臓MRIをスクリーニングツールとして定期的に使用することは、この集団における有病率が低いことから、議論の余地があると考えられる。
コメント:いずれの演題も心臓MRIで心筋評価することに関しては否定的な結論ではありました。しかし心臓MRI にてCOVID-19に感染した患者の心筋損傷と心筋炎が最近の論文で報告されていることは認識しておくべきと思われます。

次は冠動脈CTAのAIに関する報告です。
Session ID: SSCA10-3. Feasibility And Diagnostic Performance Of A New CCTA-derived And AI-based Fully Automated System For Detection Of Coronary Artery Disease
要旨:Coronary Artery Disease Reporting & Data System (CAD-RADS)を用いた冠動脈の自動セグメント化と狭窄度評価のための、冠動脈CTA(CCTA)の完全に自動化された人工知能(AI)ベースの新規ソフトウェアを評価する。2人の読影医が、18冠動脈セグメントモデルを用いてセグメントごとに冠動脈の狭窄度を評価し、SCCTのガイドラインに沿ってCAD-RADS分類を行った。シーメンス社が開発したAIベースの完全自動化ソフトウェアプロトタイプを、CCTAデータセットでテストし、人間による読影と比較した。読影者間の一致は、Cohen’s kappaを用いて評価した。
CAD-RADSの専門家間の一致率は0.83、病変部の同定は0.89であった。プロトタイプのソフトウェアは,病変部の検出において,感度97.6%(92.8-100),陰性予測値96.9%(90.8-100)を示した.ソフトウェアプロトタイプの平均計算時間は、1症例につき240秒であった。AIベースの完全自動化された研究用ソフトウェアプロトタイプは、CCTAで冠動脈狭窄を有する患者を高い診断精度で迅速かつ確実に識別することができた。AIを用いた完全自動の冠動脈セグメンテーションと狭窄検出は、より時間的に効率の良い方法で診断精度を向上させるために有用であると考えられる。
コメント: 特にAIはこのような単純な冠動脈の自動セグメント化と狭窄度評価は得意分野かもしれません。しかも高速で可能であり、読影支援システムとして非常に有用と思われ、発売されれば是非使ってみたいと思うソフトです。このようにAI領域は放射線科医をうまくサポートしてくれる方向にさらに進んでいって欲しいものです。
最後に:今回もシカゴに行くことはできなかったが、やはり現地で参加することによって得られる情報量との差は非常に大きく、来年こそは現地で参加したいと思います。

写真1. シカゴ市のミレニアムパークのクリスマスツリー。RSNA期間に見ることができる。

写真2. 以前のRSNA会場写真

 

『コロナ禍におけるRSNA2021 レポート~胸部領域を中心に~』

広島大学 放射線診断学 福本 航先生

RSNAは私にとって、最も刺激的な学会のひとつであり、これが終わることによって1年の締め括りを迎えることが恒例であった。しかし、このコロナ禍において、昨年のRSNAはオンライン開催となり、現地での参加はできず、少々寂しい気持ちで年末を迎えることになった。
今年もCOVID-19の終息には至らず、現地とオンラインのハイブリッド開催である。演題登録時点では、感染状況の先行きは不透明であり、オンライン参加を余儀なくされた。
オンライン参加では、自分の好きな時間に、好きなセッションを、自由に視聴できる点が最大のメリットである。また、分かりにくかった点などを繰り返し視聴することも可能であり、理解を深めることができる。本報告では、私が興味を持った研究や発表について、胸部領域を中心に紹介する。
まずは、世界で猛威を振るっているCOVID-19に関する研究について報告する。COVID-19のセッションでは、CTを用いたCOVID-19患者に対するリスク評価や予後予測に関する研究が発表されていた。CTによるCOVID-19肺炎の広がりや陰影性状の評価と血漿中サイトカイン値を組み合わせることにより、COVID-19肺炎の重症度や予後予測に有用であったと報告されていた。また、CTでの脂肪肝やサルコペニアの評価や肺動脈幹径の測定もCOVID-19肺炎の重症度や死亡率に関連があったと発表されていた。これまでもCTを用いたCOVID-19患者に対するリスク評価や予後予測について多くの研究が発表されているが、各々がバラバラのデータや方法によって行われており、統一した評価方法が存在しない点が最大の問題点であると私は感じている。今後のCOVID-19の感染状況については、予測困難ではあるが、統一されたCTによるCOVID-19患者の重症度分類や予後予測の確立が今後の課題であると思われる。
続いて、次世代のCTとして期待が寄せられているフォトンカウンティングCTに関する研究について、MAYO ClinicのInoue先生より大変興味深い発表があったので報告したい。間質性肺疾患が疑われる患者30名に対して、フォトンカウンティングCTと従来CTの2回撮影を行い、放射線診断科医による読影実験を行った。フォトンカウンティングCTでは、網状影やGGO、モザイクパターンに対する診断的信頼度が向上し、通常型間質性肺炎の診断能向上に寄与する可能性があると報告されていた。提示されたフォトンカウンティングCT画像は空間分解能が非常に高く、良好な画質であると感じた。今後の研究の発展や日常臨床への応用が期待される。このような世界の最先端の研究発表が聞けるのもRSNAの醍醐味である。
ポスターセッションでは、私の研究課題のひとつである胸部CTにおけるDeep learning Image Reconstruction(DLIR)の画質評価について着目した。韓国からの報告では、超低線量CT(0.22-0.49mSv)と低線量CT(3mSv)をDLIRで再構成し、主観的、客観的画質評価および結節の検出率について比較した。SNRには有意差はみられず、結節の検出能については超低線量CTの方が僅かに低かったものの、結節のサイズ測定の差は許容範囲であったと報告されていた。特に、頻回の経過観察が必要な場合には、超低線量CTでの経過観察が考慮されると結論付けていた。提示されていた画像を見る限り、超低線量CT画像は、放射線被曝が胸部単純X線写真と同等もしくはそれ以下であることを考慮すると、比較的良好な画質であると感じた。CTの線量をどの程度まで低減するべきかについては、今後議論するべき必要はあるが、超低線量CTの将来性を感じる研究であった。
RSNAへのオンライン参加は、移動がなく、低コストで参加でき、好きなセッションを自由に落ち着いて、繰り返し視聴できるため、研究や発表について内容を深く理解する点においては、現地参加よりメリットがあると感じた。しかし、RSNA特有の臨場感に乏しい点が唯一のデメリットかもしれない。私が初めてRSNAに参加した際は、世界中からの大人数の参加や巨大な会場に圧倒され、発表する際も非常に緊張したが、振り返ってみると大変良い経験となった。また、最先端の研究を肌身で感じることができ、モチベーションの向上にも繋がった。このような貴重な体験は現地参加でしか味わえないものと思われる。来年こそは、コロナが終息し、現地参加できることを期待したい。

RSNA2019に参加した際に行ったNBA観戦時の写真である。本場のバスケットボールを体感することができた。現地参加された際には是非お勧めしたい。

 

2021/06/01(火)

『ISMRM 2021 Congress Cardiovascular Topics』

東京女子医科大学 画像診断・核医学講座 長尾充展先生

はじめに
東京女子医科大学は、世界でもトップレベルの心臓病治療施設として、広く患者が集まる施設であり、わが国における循環器臨床のパイオニアとして先導的役割を担ってきた。心臓MRIは、血流量や心筋マッピングという独自の評価を含めた包括的画像診断として臨床的ニーズがあり、年間約300件の心臓MRIを実施している。臨床とともに革新的研究を牽引するために、医師と診療放射線技師、装置メーカーで定期的なリサーチミーティングを実施し、最新技術の提案を受けている。診療放射線技師にとって、ISMRMに参加することが大きなモチベーションとなり、それをサポートすることが最終的に撮影技術向上に結びつき臨床にも生かされていると実感している。ISMRM 2021ではCardiovascular部門を中心に合計11演題が採択され、国内での採択演題数はトップクラスである。

Cardiovascular Topics
ISMRM 2021ではCardiovascular部門として、MR angiography, Flow, Machine learning, & Tissue characterizationと4つの分野に分けられそれぞれ約50演題が登録されている。T1, T2, T2* mappingは、多様な心筋内因性の情報を提供し、心筋線維化はもとより炎症や代謝などの病態解明に重要な役割を果たしている。ISMRM 2021では、creatine chemical exchange saturation transfer (CEST) imaging, T1 rho mapping, & Intravoxel Incoherent Motion (IVIM) Diffusion-weighted MR Imagingなど従来心拍動や呼吸性移動で不可能とされてきたシークエンスが、Tissue characterizationのアプローチとして報告されている。IVIMでは、真の拡散係数Dと灌流を反映するD*算出のため複数のb値設定が必要とされ、DとD* の精度に影響する。心筋肥大があり、心筋の関心領域設定に再現性が高い心臓アミロイドーシスでの有用性が複数報告されている。さらに心筋T1, T2 mappingへのFinger printing技術の応用が試みられ今後大いに期待される。
4D flow MRIは血管内に置いた仮想粒子とその軌跡=流線により、血流動態を3次元+時間軸=4次元で観察可能である。複数の色の仮想粒子を設定することにより、血管内で渦巻くVortex flowが視覚化され、従来の位相コントラスト法にはないフローエナジーやwall shear stressが算出可能となる。この数年ISMRMの演題数および国際ジャーナル掲載数が増加しているトピックである。昨年までは、血流量の多い大動脈・肺動脈の大血管が解析対象であったが、今年は心室、心房、弁機能を対象とする演題も増加している。流速が低下し、大血管や心構造が重なる心腔内フローはVENCを低く設定し、血流シグナルの増加とノイズ低減を低減させる必要がある。これらを可能とするMulti-VENC設定やFree-breathを含めた高速撮影法の進歩や4Dフローソフトウエアの開発も数多く報告されている。我々は、末梢循環に関して、脈波同期と関節用コイルを使って手足末梢の動静脈フローイメージングにも着手し、本学会において報告した (図1)。撮影時間は3分程度。腎不全患者に多い下肢動脈閉塞患者において、非造影である本法は治療方針の決定に有用な情報と期待される。

おわりに
2021年マスターズゴルフ王者の松山英樹選手が現在アメリカ東海岸で全米プロゴルフ選手権を戦っている。同郷で彼の熱烈なファンである私は、深夜からテレビ観戦しており、画面では観衆のほとんどはマスク無し、ビール片手に”Go Hideki!” と歓声を上げている。バンクーバーで開催予定であったISMRM 2021は、早々にonline変更となったが、今後早期に国際学会も従来通りの参加を期待させるアメリカの現状である(図2)。


図1:Non-contrast high-resolution 4D-peripheral MRA using retrospective echo planar imaging


図2: ISMRM 2018 Paris. ルーブル美術館屋上から著者本人

 

『“ISMRM 2021 -an Online Experience-”に参加して』

九州大学大学院医学研究院分子イメージング・診断学講座 栂尾 理先生

2021年のISMRMはバンクーバーで行われる予定でしたが、COVID-19のため昨年に引き続きWeb開催となりました。この学会は世界のいろいろな都市で開催される点が大きな魅力で、私も2008年のトロントでの初参加からほぼ毎年この学会に参加しており、各都市の良い思い出がありますので、現地に行けないのは大変残念でした。Web学会のメリット・デメリットはほぼ皆さんが思っておられる通りだと思いますが、最大のデメリットは“学会に行ってきます!”とは言えず、仕事が休めないことでしょう。読影の合間に見ても頭に入りませんし(見落としが危険です)、夜遅く疲れて帰ってきてからでは参加できる時間は限られていますのでやはり現地で没頭したいです。当然メリットもあり、今回のISMRMの学会ではHPから自分用のAgendaを作成できたり、録画やAbstractを効率よく見たりすることができました。
今年のISMRMのライブセッションでは最初の1時間は事前に録画してあるoralの発表をZoom Webinarで流し、その後の1時間はoralおよび電子ポスター発表者が5人ずつの小グループに分かれてZoom Meetingに入り”face to face”で訪れてきた参加者からの質問に答える形式でした。昨年私はoral発表でしたがlive sessionはなく動画も流されず、Zoomに大人数の発表者が集められて1人1-2分間ずつ座長からの質問に答えるだけという簡略化されたものでしたのでしたので、今年は環境が改善されていると感じました。今年私は電子ポスターの発表でしたが小グループのZoomに入るとなんと他の4人の発表者は誰もおらず、わざわざ彼らへの質問まで考えていた私はいったい‥とダメージをうけました。やはり時差の問題やWeb開催のためモチベーションが下がっている面もあるのでしょう。 Gamificationとして、録画を見たりZoomグループ会議に参加したりするごとにポイントが貰えて、例えばランキング1位の方は来年の参加費がタダになる、などという参加を促す試みも行われていました。
さて、今回のISMRM全体を通して目立ったのは”Contrast Mechanism”というカテゴリーでした。ISMRMではNeuro、Body、Cardiacなどカテゴリー分けしてプログラムが構成されます。その中の1つが”Contrast Mechanism”なのですが、昨年は3枠しかこのカテゴリーがプログラムに入っていなかったのに対して、今年は13枠あり、加えてプレナリーセッションでも紹介されていました。CEST、MT、T1rho、T1、T2など、より分子レベルの物理現象に関連したコントラストメカニズムがフォーカスされていました。プレナリーでは九大からのCESTの研究も紹介されており、感慨深いものがありました。
それ以外にはやはりCOVID-19とAI関係の演題、セッションが目立ちました。“MRI in COVID-19”というセッションの教育講演(E5964)ではCOVIDの色々なパターンの脳のMRI所見についてわかりやすくまとめてあり、断片的にしかかじったことのない私は大変勉強になりました。Advance imagingを用いてCOVID-19患者の脳における変化を評価した研究も目立ち、ASL(0217)、QSM(0218), MRS(1744)で検討した研究、さらにはDTI, SWI, QSM, rsfMRI, MT、ASLなどあらゆる手法を駆使して評価した研究(1742)などがありました。
新しい高速化の動向としてはPhilipsシンポジウムで高速化技術のさらなる改良に関する紹介がありました。現状の高速化技術Compressed-SENSEの折返し展開ループの中にAIを組み込むことで、展開精度やノイズ低減効果を高め、さらなる高速化を実現するという内容です。Parallel Imagingなどの画像再構成が終了した後に、後処理としてノイズ軽減やアーチファクト抑制のためにAIを活用するという試みとは異なり、現在の高速化のフレームの中にAIを組み込んでさらなる高速化を実現する方向性がユニークな点となります。また、AIだけではなく、Compressed-SENSEをCartesianだけではなくRadialなどのNon-Cartesian Samplingにも拡張する試みも紹介されました。Radial系のサンプリング技術は動きの影響を軽減するという長所がある一方、k空間のサンプリング数が多くなり撮像時間が延長するという弱点があります。そのようなRadial系のサンプリングにCompressed-SENSEが応用できることで、短い撮像時間で高画質かつ動きに強い検査を実現することが可能になるとの紹介で、将来のルーチン検査のスキャンテクニックが変わっていく、例えばMultiVaneなど動き補正を用いたルーチン検査が、状態の悪い患者様限定ではなくルーチンとして使用されていく可能性を感じました。
個人的に興味のあるASLの動向ですが、プログラムの中で“Tutorial”というカテゴリーがあり、その中のセッションの1つに” Hands-On Analysis of Physiological MRI: ASL MRI I”というものがありました。定員に達して参加はできなかったのですが概要説明プレゼンでは、ASLのフリー解析ソフト“Quantiphyse”の紹介がありました。後処理も含めたASLの標準化を進めていこうというスタディグループの意向がでたものと理解しました。その処理ソフトでは、現在九州大学でも取り組んでいるダイナミックASLの解析がスタンダートとして入っており、今後のASLの標準化の1つのテーマがダイナミック情報の取得であると感じました。その他の教育セッションや一般セッションでもASLによるダイナミック情報の取得をテーマにした発表が散見されました。ATTに応じたマルチPLDの最適化(2715)、バスキュラーコンポーネントを含めたモデル式による定量(2718)などがありましたが、ダイナミック情報(ATT)を臨床に関連付けた報告としては、聴講した限りATTをMS患者の診断に用いようとする(MS患者ではラベル到達時間が延長する)教育セッションのプレゼンだけでした。もう1つのASLの方向性として、b=50程度のバイポーラ傾斜磁場を加えて毛細血管レベルの信号を消し、組織に到達したラベルスピンからの信号だけを取り出すことにより、BBBの交換速度を求める(470)、ASLをLong TEで撮像することによって、CSFに漏れ出したラベルスピン信号だけを収集し、血管あるいは組織からCSFへのスピンの漏れ出しの状態を把握する(471)など、ラベルされたスピンがBBBなどを介して血管の外に出る現象を捉えることで機能情報を得ようというものがありました。neurofluidは最近のトピックであり、そこにASLという技術をプローブの1つとして利用していこうというトライが活発になっていると思われます。また、九州大学とPhilipsで開発を行った4D-S-PACKをSuperselective-pCASL Perfusionを組み合わせることで、局所Perfusionとその領域を支配する血管の血流動態を把握しようという試みが、ミュンヘン工科大学から発表されていました。造影Perfusionで血流遅延が認められる領域と、そこを支配する血管の血流動態を視覚化して関連性を把握するなど、今までにない新しい情報提供の可能性が紹介されていました。
最後になりましたが、来年こそはロンドンで開催されるISMRMに現地参加できるよう、COVID-19が一刻でも早く収束することを祈念します。

ISMRM 2017ハワイ・コンベンションセンター

留学時代の友人と再会

 

『Congress Topics Report in ISMRM2021(Liver & COVID-19)』

信州大学医学部画像医学教室 山田 哲先生

2021年の ISMRM は新型コロナウイルスのパンデミックのため、完全オンラインではありながら、毎年恒例のスケジュールでライブ配信が土曜日(5/15)の教育講演を皮切りに5/20までの6日間行われ、6/1までオンデマンド配信が行われている。このレポートではLiver領域のトピックスに加え、特設セッションも設けられ人々の関心の高さが現れていたISMRMならではのCOVID-19関連演題についてもレビューしたい。
Liver 領域おける主なトピックスは、1)新技術を用いた撮像高速化と画質改善、2)multi-parametric MR imagingによる新たな imaging biomarker の探索の2点に大別されるように感じた。 1)の撮像高速化と画質改善については、DWI撮像と深層学習(演題番号:0315)、radialサンプリング(0316, 0318)、CINE画像を用いた同期法(0317)を組み合わせたもの、DCE-MRIとradialサンプリング(0320)および深層学習を組み合わせたもの(0529)、さらには自由呼吸下にfingerprinting(0478)・PDFF(0753)・T1mapping(0754)を得るものなど、より精度の高いmulti-parametric MR imaging の実現に向けて様々な新技術が応用されていることが感じられた。一方、2)の新たなimaging biomarkerの探索については、ASL、 perfusion imagingについての系統的な教育講演(E5824, E5826, E5827)に加え、今後肝代謝解析への応用も期待されるhyperpolarized 13C-pyruvate MR imagingによる血流解析(0319)、肝線維化評価におけるmacromolecular proton fraction(0314)、quantitative susceptibility mapのテクスチャ解析(0535)などの新技術の応用が報告されていた。また肝細胞癌の早期発見(0314)や早期再発予測(0535)に深層学習やradiomics解析を応用した報告があった。しかしながら、やはり現在最も関心の高い対象疾患はNASH/NAFLDであり、肝硬度(stiffness)を用いた免疫療法の治療効果判定(0035)、アルコール性肝疾患の予後予測(0036)、肝硬度の計測におけるPDFFの影響(0034)についての報告があった。さらに、3D-MREやmulti-frequency MREを用いて得られる粘性(viscosity)を用いた線維化診断(0033)や、粘性増加の原因が組織の血管構築の変化によることを明らかにする基礎的検討(0027)、MREで得られる様々なimaging biomarkerについての包括的な教育講演(E5818)など充実した内容であった。一方、PDFFなどMRIが得意とする脂肪定量の分野においても、二型糖尿病患者の脂肪肝評価における有用性が改めて示されたこと(0253)やPDFFとMREおよびT1mappingを組み合わせたNASHスクリーニングの有用性(0311)などが報告されていた。さらに、脂肪定量についての教育講演(E5702)では脂肪肝と腹腔内脂肪量の関係性から虚血性心疾患リスクの推定が可能であること、NAFLDでは筋肉量と筋肉内脂肪含有量のバランスが崩れることなどが解説されており、脂肪定量の対象を単一臓器に限定せず、全身臓器に目を向けることの重要性について改めて認識させられた。
COVID-19関連の報告については、「いかにパンデミックの状況下において必要な患者にMRIを安全に施行するか?」ということが大きな命題として挙げられており、検査時間を短縮したabbreviated MRプロトコールの重要性(E6047)やPoint-of-care MR imagingいわゆるポータブルMRIの有用性についての報告(E6076)がなされており、パンデミック下においても着実にMR技術の進歩がなされていることを心強く感じた。
次回のISMRMは2022年5/7から5/12まで英国ロンドンで開催される予定である。一年後にはパンデミックの終息を願い、往年の対面での熱気溢れる学会開催を期待したい。

写真:ISMRM2017 in Hawaii

 

『ISMRM2021腹部骨盤領域で気になった発表』

川崎医科大学 放射線診断学 山本 亮先生

新型コロナウィルスの猛威は、当初予想していたより激しく、いまだに収束の目途が立っていない状況にあります。さらには複数の変異株の出現により、昨年にも増して予断を許さない状況が続いています。私が住んでいる岡山県にも緊急事態宣言が発令されている状況です。このような状況の中、ISMRM2021は昨年に引き続きweb開催となりました。ISMRM参加による世界各国への海外出張は私の研究のモチベーションの一つでもありますので、一刻も早い終息を願うばかりです。
今回、ゲルベCongress Topics執筆の依頼をいただき、腹部骨盤領域の演題に一通り目を通してみました。改めてMRI技術のむずかしさを痛感しましたが、良い勉強の機会になりました。おおまかな傾向や私個人の印象の紹介となりますが、多数の発表の中には私が理解できる内容のものと、そうでないものがありますので、少し偏った紹介になることをご了承ください。
肝臓では、びまん性肝疾患分野として特にNAFLDにおける脂肪沈着や線維化の定量に関する技術の発表が多数ありました。特に2型糖尿病の有無と絡めた評価が多いように感じました。肝腫瘍性病変に関しては肝細胞癌の微小血管浸潤が予後を左右する病態として注目されており、R2*やIVIM、エラストグラフィーなど様々な撮像で評価した発表が見られていました。現時点ではいずれも決定打に欠ける印象でしたが、肝細胞癌における今後の重要な研究テーマであると感じました。その他では4D flowで門脈血流を評価し、肝硬変や食道静脈瘤との関連性に関する発表も数演題認められていました。膵臓においても脂肪沈着やADC値の変化などの発表がみられましたが、2型糖尿病との関連性の発表が複数ありました。昨年までの発表内容を私が覚えていないだけかもしれませんが、今回のISMRMの発表では、2型糖尿病にかかわる発表が増えているように感じました。腹部以外の領域においても2型糖尿病に関連する発表が数多くみられ、糖尿病関連認知症患者における脳の信号変化に関する発表、糖尿病性神経障害や筋委縮をDTIなどで評価した発表、糖尿病性腎症の早期評価についてT1マッピングやBOLD、IVIMなどで評価した発表などが複数みられました。形態評価の画像診断の時代には、糖尿病、なかでも早期糖尿病といえば画像診断とは縁遠い病気でありましたが、世界的に増加傾向にあり、全身臓器にあらゆる変化をきたしてくる2型糖尿病患者の変化を評価する研究は、MRIの撮影技術の発達とともに、今後も注目され、増えていくような予感がしました。
その他、消化管に対するMRI検査では直腸癌に関する発表が多く、局所深達度の評価に加えて、化学療法の治療効果の予測に関する発表が複数ありました。治療効果の予測に関しては肝細胞癌のTACEに対するものなどもみられてました。治療効果の予測に関する研究は、非常に臨床的でわかりやすく、私個人的にも興味がもてる分野です。今後発展していく新しい画像診断分野として注目していきたいと思いました。その他消化管では食道癌の局所深達度評価や嚥下機能、逆流性食道炎の評価に関する発表があり、新しい分野で興味が持てましたが、呼吸や心拍動によるアーチファクトや空間分解能の問題など、臨床的に定着するにはまだ少しハードルがある印象がありました。その他では画質改善や撮像時間短縮に関する発表や、様々な分野でAIの技術を用いた発表が多数みられましたが、少し苦手な分野でもあり、詳細な内容は割愛させていただきます。
新型コロナが蔓延してから、かれこれ1年半以上飛行機に乗っていませんが、最近では空港の雰囲気を懐かしく感じています。来年こそは世界が新型コロナ(COVID-19)を克服し、Withコロナで得たプラス面を継承しつつ、以前のように海外学会に現地参加できることを願っております。

ISMRM2019モントリオールの街並み

 

『ISMRM & SMRT 2021トピックス』

がん研究会有明病院画像診断部 上田和彦先生

先日開催されたISMRM & SMRT 2021の概要と今後有望と思われる話題―Very- and ultra-low-field MRI―について述べる。
1) Overview
期間は5月15-20日。Onlineのみの開催であった。Day1-Day6まで24時間休みなく開催された(Day 1 UTC 7:00 AM (日本時間16:00) ― Day 6 UTC 24:00 (日本時間9 :00) 。
Demo sessions open-source softwareやHands-on tutorials はTutorialやDemo sessionが全時間帯に万遍なく配置する工夫がなされていた。後者はsmall-group teaching, 様々な時間帯で開催, オンラインサポートを特徴としたISMRM gather.townとして初となるteaching sessionとして今回の目玉とされていた。
それ以外のプログラムは開催後もアクセス可能なものが多く、反復視聴や時間が重なった複数のプログラムの視聴など、オンラインならではの利点が感じられた。
次回2022年はLondonにて5月7-12日の開催が予定されている。

2) Focus: Very- and ultra-low-field MRI
Educational sessionでは8名の演者が登壇し、Ultra-low-field MRI (< 0.01T)、Very-low-field MRI(< 0.1 T) についてのreviewと現況が紹介された。
1. Why MRI Below 100 mT? Low-Cost, Portable & Application-Specific Systems. Andrew Webb (Leiden University)
2. Breaking MRI Out of Radiology: Clinical Experience & Potential for Portable & Point-of-Care Low-Field MRI. Kevin Sheth (Yale University).
3. Contrast, Signal & Noise at Very- & Ultra-Low Versus High Field Strengths. David Lurie (University of Aberdeen).
4. Low-Field Versus High-Field Hardware: Magnets, Coils & Spectrometers. Yasuhiko Terada (筑波大学)
5. Translating Advanced Sequences & Reconstructions from High-Field to Low-Field. Neha Koonjoo (MGH).
6. SAR Is No Object: Alternative Spatial Encoding Strategies for Low-Field MRI. Gigi Galiana (Yale University).
7. More Than Just Open Magnets: Resources & Opportunities for Open-Source Hardware & Software in Low-Field MRI. Lukas Winter (Physikalisch-Technische Bundesanstalt).
8. Coil Demo: What’s Different About Low-Frequency Coils? Charlotte Sappo (Vanderbilt University).
低磁場MRIの利点は高磁場MRIと比べると低コスト、Imaging in high susceptibility、SAR低減、Gradient noiseの削減、TRを小さくできる低磁場ならではの画像コントラスト(Shorter T1、Longer T2 and T2*)で、結果として肺MRI、インプラントによるアーチファクトが小さな画像が取得可能であることの大きな魅力と、ICUでの撮像、診療所での撮像、低経済圏でのMRI普及などAccessibilityの利点がreviewされていた。一方、小さな信号/ノイズ比が低磁場MRIの大きな欠点であり、このことが普及の妨げとなっていた。しかし、高磁場装置の大幅な画質向上を推し進めた、AcquisitionとReconstructionにおける3つの技術革新―1) Precise and strong gradients (synergy with longer T2*)、2) Array receivers、3) Modern reconstructions―が低磁場MRIを“Unlike the original low field scanners”に変貌させていると述べられていた。
Scientific sessionでは1 T未満の装置についての発表が多数みられた。
翻ってすでに64 mTのPortable MRI装置が販売されており、1T未満MRIへのプルバックの予兆も感じられる現在、3つの技術革新の精度がますます向上することが期待できることから、再生された低磁場MRIは新たなモダリティとして我々の身近に登場する可能性があり、注目に値する。
*以下の図は論文より転載

図1) 64-mT MRI 商業機として販売されている。
Sheth, Kevin N et al. “Assessment of Brain Injury Using Portable, Low-Field Magnetic Resonance Imaging at the Bedside of Critically Ill Patients.” JAMA neurology, e203263. 8 Sep. 2020, doi:10.1001/jamaneurol.2020.3263

図2) 6.5mTの実験機. 機械学習を用いたReconstructionにより11分で脳の撮像が可能である。
Sarracanie, Mathieu et al. “High speed 3D overhauser-enhanced MRI using combined b-SSFP and compressed sensing.” Magnetic resonance in medicine vol. 71,2 (2014): 735-45. doi:10.1002/mrm.24705

図3) 車載0.2 T実験機
Nakagomi, Mayu et al. “Development of a small car-mounted magnetic resonance imaging system for human elbows using a 0.2 T permanent magnet.” Journal of magnetic resonance (San Diego, Calif. : 1997) vol. 304 (2019): 1-6. doi:10.1016/j.jmr.2019.04.017

 

『MRI value, CMR and Sustainable Scientific Future』

東北大学大学院医学系研究科 先進MRI共同研究講座 大田英揮先生

コロナ禍の2年目となり、オンラインでの学会構成も、徐々に変化してきているように思います。ISMRMは数年前から、proceedingsが従来のPDFの形式から、ブラウザーでの閲覧に対応した形式を採用するようになっていますが、今回はproceedingsと 動画スライド、デジタルポスター発表のリンクがうまく機能しており、発表にアクセスするのがより簡単になり、 運営側ではかなりの検討をされたようです。一方で、私自身は相変わらず日常業務の傍らでの参加しており、国内での複数の学会との重複もあったために、コロナ禍の学会参加方法には残念ながらあまり進歩がありませんでした。このため、限られた参加のなかでの学会報告となってしまいますが、どうぞよろしくお願いします。

1)MRI Value:Making MRI More Accessible: Speed, Cost & New Developments
ボストンから、神経膠腫再発と放射線壊死の鑑別にMR spectroscopy(MRS)を用いることで、コスト削減効果があるかどうかを検討した報告(Oral 741)。最近になって、米国ではMRSが条件によっては保険償還の対象になったことが背景にある。また、米国ではClinical Decision Supporting Systemが診療に取り入れられ、それぞれの症候に応じた適切な検査・手技を行わないと、保険償還されなくなってきており、無駄な検査を施行できない事情がある。そこで、MRSを再発と放射線壊死の鑑別診断に組み込むモデルを作成し、最終的に不必要な生検の頻度を減らすことによるコスト削減効果を検討した。生涯で見た場合、QALY (quality-adjusted life-years) あたり、4万ドル以上の削減効果が見込まれるという結果だった。これを元に、MRSを神経膠腫治療後の検査法として保険償還されるように訴求したいという結論であった。保険償還について、撮像法毎に細かく決められている米国とは対照的で、日本ではMRI検査の保険点数の枠組みが大雑把であり、検査の適応自体もあまり厳しくない。このような費用対効果を念頭におく検討は、国内においても今後実施していく必要がある。そうすることによって、画像診断の価値を客観的に評価することができ、なおかつ価値のある画像検査を選択して施行していくことが出来るようになると思われる。
Point-of-care MRI: point-of-careとは、ベッドサイド、患者のそばといったニュアンスのこと。MRI装置といえばハイスペックで高価、高磁場なものを連想しがちであるが、その反対方向のモバイルMRIである。大型トラックに通常の臨床機を搭載するようなモバイルではなく、ベッドサイドに持ち込めるようなサイズのものであり、頭部専用装置のようである。これらを(大型トラックではなく) ワゴン車に搭載しpopulation study、 community studyに活用するコンセプト(Oral 745)、磁場シールド外で干渉がつよい環境下での対策 (Oral 749)などが報告されていた。また、脳卒中のリハビリセンターで、まさにベッドサイドで活用するという報告もあった (Poster 3822)。画質はハイスペックのMRIには届かないが、目的を選べば画像診断に耐えうるものかもしれない。大規模病院の外におけるMRIの活用を試みる点で、今後、新たなMRIの価値を訴求できるかもしれない。
2)心臓血管領域:Parametric mappingに関する研究
2013年にNatureでMR fingerprinting (MRF)が発表されてから、多くの領域でその応用可能性について検討されてきた。心臓血管領域では、呼吸変動と心拍変動の課題があるが、それを克服してMRFを適用する試みが行われている。King’s College Londonから、息止め下の16心拍でMRFを撮像し、T1、T2及びT1rhoマップを取得する手法が報告されていた。ボランティア例のみであったが、得られた画像の画質は良好と思われる(Oral 691)。 また、MRFの心臓への臨床応用として、Cleveland Clinic から、心アミロイドーシスを対象とした研究が報告されていた。健常例と心アミロイドーシス群で、T1、T2値の群間比較および、MRFで得られる信号の時間経過 (time course)のパターンを線形判別分析した結果の群間比較を示していた。T1、T2値は何れも疾患群で優位に高値だったが、time courseの線形判別分析の方が、より両群の分別を良好に示していた(Oral 0689)。
Cedars Sinaiから、自由呼吸下で心臓全体を3Dで撮像し、同時にT1、T2、B1マップおよびシネ画像を取得する方法が報告されていた。10分未満の撮像で得られたデータからLow-rank tensor image modelという手法を用いて、T1緩和、T2緩和、心拍動、呼吸変動の関数を求めていた。心電同期は実施しておらず、連続的に取得された信号から心周期を取り出していたようである。画質は従来法とは異なっており、臨床例が撮像されている段階ではないが、さらなる技術の発展に期待したい (Oral 690)。

3) Sustainable Scientific Future in MRI:
日本時間の木曜日夜に行われた、参加者のアンケートを組み込んだとパネルディスカッションで構成されたSecret Session。前半は学会の形式をどの様に継続していくかについてのディスカッションであった。昨年の学会後の参加者アンケートでは、Hybridを望む声が多かった。パンデミックの後のHybridには、個人個人が参加する形態ではなく、サテライトを設置して地域でのin personで参加するような形態も考えられる。一方で、サテライトの形式だと地域毎に分離してしまう問題はある。今後、会の発展に向けて変わるべき部分と、従来通り変わらない部分とがあるが、少なくとも2019年以前の形式に戻ることはない。Hybrid形式は、これまでオンサイトで参加することが難しかった人達に学会参加の機会を与える点でも望ましく、さらなるcommunityの拡大につながると考えられる。
後半は、環境に配慮したsustainableな研究環境とは?というディスカッションであった。Green LabというNPO法人からパネリストが参加していた。ISMRM参加者では、Dry lab、Imaging labで働いている人が多いので、有害な化学薬品などに配慮する機会は少ないかもしれないが、いわゆる省エネを意識した環境構築は必要である。最後に視聴者が「それぞれ何が出来るか」についてリアルタイムに投稿したものを発表して take home messageとしていた。SDGsの取り組みについては、ベンダー等の取り組みに期待することの他、一人一人の心がけの積み重ねが大切であると思われる。

写真は、2018年(パリ)、2019年(モントリオール)のISMRMに参加したときのものです。筆者は時々出張に折りたたみ自転車を携行しますが、パリの街を走るのはとても爽快でした。トロントでは、発表直前の後輩の緊張をほぐすために、カフェに立ち寄ったときの一コマです。早くこのような日が戻ってくることを願います。

 

『ISMRM MR Academy & Fun Run』

東北大学大学院医学系研究科 先進MRI共同研究講座 大田英揮先生

今回の学術集会と密接にリンクしていたわけではありませんが、ISMRMのウェブサイトの中に、“MR Academy”というものが作成されています。こちらの取り組みについて、私見を含めつつ紹介したいと思います。なお、URLはこちらにあり、そのトップに目的も記載されていますので、興味のある方はご覧下さい。https://www.ismrm.org/online-education-program/
このMR Academyを立ち上げるために、昨年の初め頃からEducation committeeが構成され、私も参加する機会をいただくことになりました。今年の学会のPresidentであったDr. Leinerから、私宛にcommittee member に興味があるか?との打診があったのがきっかけで、折角の機会と思いこの活動に参加し始めました。学会活動や論文業績からは、より適任の方が沢山いらっしゃるにも拘わらず私にお鉢が回ってきた理由は、Dr. Leinerとは古くからの知り合いであったことのほか、ISMRMが取り組んでいるD&I (diversity & inclusion)の影響が強いように思います。Committee Memberを見ても、diversityが色濃く反映されているのがよくわかります。
これまで、ISMRMでは毎年初夏に行われる集会の他に、Workshop等を開催してきていました。しかしながら、コロナ禍でオンサイトで集まることが難しくなったことや、オンラインツールの発展に伴い、これまでの形式とは一線を画した形態で、教育を進めて行こうというのが、このcommitteeの目的です。ここでは、”both breadth and depth”と記載されているとおり、入門編からcutting edgeの内容まで様々な教育コンテンツを、“無料で”提供するというサービスを目指しています。現代は、各種の動画配信サイトやスライド紹介サイト、及び網羅的な記事が掲載されているようなサイトがインターネット上にあふれています。しかしながら、一部には玉石混交ともいえる内容が含まれていることがあります。MR Academy内では、実際にISMRMの教育セッション等で発表された良質な動画を厳選し、公開していくことを試みています。トピックは、Body、Cardiovascular、 Cross Cutting & Emerging Technologies、Diffusion/Perfusion/fMRI、Molecular Imaging/Spectroscopy、Musculoskeletal、 Neuroradiology、Physics & Engineeringに分かれており、それぞれで教育講演を掲載していく予定になっています(一部、掲載済み)。また、その他にも、MR Academyからの独自の情報発信として、それぞれのTopic内でいくつかのテーマを決め、独自の解説ビデオも作成中です。
ISMRMがこのような試みを始めた理由について、committee内でのやりとりからいくつか感じたことがあります(私見)。まず、第一には、このパンデミックがより強力なドライビングフォースとなった、「オンライン化」が上げられます。数あるインターネット上の情報の中でも、「MRIに関する情報はここにありき」といえるように、アクセス数を増やしてオンライン教育のイニシアチブを取っていきたいという意図があるように思います。もう一つとして、臨床医の学会参加の減少が懸念されていることがあるようです。臨床的な発表が主体となっているようなMRIの学会は、例えば私の専門領域の心臓血管領域では、SCMRやEuroCMRなどがありますし、RSNAもどちらかというと臨床よりの発表が多いです。そのような中で、基礎・技術的な研究者と臨床家のタイアップ・相互交流をより活発にしたい、それを通じて臨床医のISMRM参加を促したいと考えているようです。
ちなみに、コンテンツのYou tubeを使った無料配信については、様々な考え方があると思います。学習する側にとっては、無料で視聴できるのは歓迎ですし、それが厳選されているのであれば、なおさら素晴らしいと思われるのが大半だと思います。一方で、提供者(講演者・学会)側の立場からすると、自らの専門知識の「安売り」を是とするか非とするかは、意見が分かれるかもしれません。このようなコンテンツはビジネスとして成立しうるものでもありますし、世の中では医療のreference siteの購読料の高額化や、論文出版費・購読料の高額化などが、話題になっています。考え方もdiversityがあってよいですが、私たちの学び、および研究・臨床がsustainableであるようなモデルであって欲しいと願います。
Committee memberの人数はそれなりにいますが、まだ始まったばかりの組織であり発展途中の段階です。サイトの充実度もまだまだではありますが、動画形式での良質な講義は、やはりMRIに興味がある人達にとって貴重な学習材料になると思います。今後のコンテンツ充実にご期待下さい。

今年のISMRMでは、Yoga と Fun runがバーチャルサイトとして開設されており、私は後者に参加しました。こちらは自己申告制でタイムと距離を投稿し、写真も適宜投稿することが推奨されていました。Prizeをとることはできませんでしたが、登録サイトにあった図柄を参考にして、大学周辺で “ISMRM“を描きながら走ってみました。毎年5月に行われる仙台国際ハーフマラソンは、残念ながら2年連続中止となってしまいましたが、代わりに新緑の街中を(GPSログをつかった線引きなので、ルートのミスが起きないように気を使いながら)、気持ちよく走ることが出来ました。こんなことが出来るのも、デジタル化の恩恵です。コロナ禍はまだ継続しますが、皆様も健康に気をつけながら適宜 relax の時間をお楽しみ下さいませ。

写真1.Route ISMRM in Sendai


写真2.仙台の新緑

2021/03/23(火)

『ECR2021オンライン参加報告』

京都大学医学部附属病院放射線診断科 伏見育崇先生

コロナ禍の昨年に引き続き、2回目のオンライン開催のためか、ほとんどストレス無く講演などを見ることができました。時差のため最終日の演題についてはほとんど見ることができなかったのは少々悲しかったですが。Premium Educational Packageに入っておくと会期以降も見ることができるようでした。
講演画面では、クリムトの「接吻」が発表中にピカピカ光るのがおしゃれ?で、ウィーンの人のクリムト愛の深さが伺えました(勝手な憶測ですが)。Embracingが学会のテーマのようでしたが、ソーシャル・ディスタンスをどうしたらいいのかよくわからなかったです。しかし、Web参加であっても、演者の表情が比較的明瞭に見える仕様であったため、臨場感が比較的保たれていたように思いました。開催時期の関係で自分にとってECRはなかなか参加しにくい学会でしたが、非常に好印象を持ちました。学会が多い時期ではありますが、ECRのルーチン参加も考えていきたいと思います(実は今回が初参加でした)。
以下に、ECR2021において私が興味を持ったテーマをいくつかお示しします。
High-field MRとlow-filed MRの講義が個人的には興味深く拝聴しました。High-filedとしては7テスラ、low-filedとしては0.55、0.05テスラの話題で、1.5~3テスラのような中間は無い両極端な構成でも、十分に楽しめました。AI技術がlow-filed MRの画質改善に役立つ可能性もあることから、ICUやMRへのゼロ・アクセスの地域への展開も期待できるということで、楽しみではありますが、本当に実現していくのか先読み能力に乏しい自分としては半信半疑でもありました。
Neurology 2015に発表されたInternational consensus diagnostic criteria for neuromyelitis optica spectrum disordersに従った臨床例の提示がありました。Circumventricular organs, Area postremaの重要性、shaggy enhancementがMSとの鑑別に有用などを明快に示していただきました。また、まだまだ整理が付きにくいMOG抗体関連疾患についても、両側性、多発性、FLAMES、髄軟膜造影効果、脳神経involvementなどの有用性を示していただきました。鑑別が難しいMOGADとNMOSDですが、皮質、傍皮質病変ならMOGAD、脳室周囲器官病変ならNMOSD、両側視神経病変ならMOGAD、視神経萎縮ならNMOSD、脊髄病変が消退し萎縮を伴わないものはMOGAD、萎縮を伴うものはNMOSDと明快に示していただきました。
COVID19関連では、UK Biobank brain MRI protocolの発表もありました。Capturing MultiORgan Effects of COVID-19 (C-MORE)というトライアルの一部の紹介のようでしたが、30分とやや長めの撮影プロトコルのUK BiobankをCOVID19 survivor用に改変して、17分程度のコンパクトにしたプロトコルでした。コンパクトにするに当たり、全ての撮影を短くするのかと思ったのですが、T1 (MPRAGE)という基幹シークエンスだけは、UK biobankと同一のものを使用するようで、これにより互換性をキープするのかと推察されました。COVID19では、白質のvolume loss、視床のT2*値の上昇?などが見られるようです。今後さらに縦断的にフォローされていくようです。貴重な前向き研究になると思われました。C-MORE自体は脳、心臓、肝臓、肺、腎臓を含めた70分のプロトコルのようです。
ヨーロッパにおける神経放射線医師に与えたCOVID19の影響についてEuropean Society of Neuroradiology (ESNR)による調査の報告もありました。1500人以上のESNRメンバーなどにメールなどでアンケートを行ったようですが、167回答があり、48%でpersonal protection equipmentが十分に手に入り、40%ではその後状況が改善した、検査数はcrisis phaseを過ぎた状況でも減少している、心理面で悪化の傾向がある、などの報告がありました。他人事ではない状況が垣間見えました。
来年こそは現地でのECRをenjoyできるように世界がCOVID19を克服できることを祈念いたします。(以前に撮影したGratzの街の風景と、チューリッヒ中央駅です)

『ECR 2021学会レポート』

弘前大学 放射線診断学講座 掛田伸吾先生

COVID-19禍のなかECR 2021が始まりました。ワクチンの恩恵に淡い期待もありましたが、昨年と同様、ウエブ開催となりました。私は、昨年の参加アカウントに加え、320 EURを支払いPremium Education Packageを取得し、仕事の合間に視聴しています。Opening Ceremonyでは、PresidentであるMichael Fuchsjager先生より、COVID-19禍における放射線診療やウエブを用いた教育、放射線業務従事者へのオンラインによる心身へのサポート(ヨガや合気道教室など)についての学会の取り組みが紹介されていました。Ceremonyの雰囲気は、クラシックから始まり次々に登場する様々なジャンルの音楽が、学会ポスターに象徴される金色の映像美に大変マッチしており、Fuchsjager先生のこだわりが感じられました。また終盤では、Fuchsjager先生が美声を披露されるサプライズもありました。
学会の内容は、今回も参加者を楽しませる企画が満載で、Image Interpretation Quizは、映画スターウォーズ仕立てになっており、演者が映画のキャラクターに扮して映画のパロディを盛り込みながらプレゼンする様子は、ファンならずとも楽しめたのではないかと思います。また「ESR meets the Arabian Peninsula」という企画では、普段は想像することもないUAEやサウジアラビアなどアラビア半島諸国における教育や放射線診療を知る貴重な機会になりました。研究発表を見ますと、やはりartificial intelligence (AI) とCOVID-19が話題でしょうか。RESEARCH PRESENTATION SESSION:COVID-19 findings では、多くの感染者をだした国々より、蓄積した臨床・画像データに基づく、胸部画像所見や予後に関して、まとまった報告がありました。なかでも造影CTを用いた肺病変と肺潅流の研究では、感染3ヶ月以降に胸部症状を有する患者の65.5%に肺潅流異常を認め、その多くが通常の胸部CTでは所見を指摘できないと報告していました。この結果は、COVID-19患者における高い後遺症の頻度を示すものであり、今後も放射線科医が取り組むべき重要なテーマであると感じました。また、AI in the diagnosis and treatment of COVIDでは、胸部単純X線や胸部CT におけるAIを用いた診断サポートシステムの研究が多数報告され、それぞれのシステムの臨床応用における高い完成度を感じました。脳神経領域の実臨床レベルのAIでは、進行性核上性麻痺(PSP)診断におけるdeep-learningベースのアルゴリズムを用いた脳容積解析システムがあり、中脳容積に適用することでPSPとパーキンソン病を高い精度(AUC = 0.915)で鑑別できると報告していました。この結果は、従来用いられてきたmidbrain to pons ratio (MTPR)に適用し診断精度より有意に高くなっており、AIによる絶対的な容積評価が、以前に我々が用いてきた相対的な容積評価より優れていることを示唆するものかもしれません。このシステムの解析時間は4分程度であり、客観的な診断が難しいとされる様々な変性疾患の萎縮の評価への応用が期待されます。
各機器メーカ-からの新製品は学会の目玉ですが、今回はより実用的なAI技術が多く報告されていました。昨年のRSNAと同様にdeep Learningを用いたノイズ除去再構成技術が各メーカ-で製品化されています。またRSNAでは7T MRIの臨床機が登場したことがトピックでしたが、今回の学会では低磁場MRI(0.55T)も話題かもしれません。低磁場のデメリットである低画質をノイズ低減など最新技術でカバーすることで、臨床的な用途に十分対応できるとのコンセプトです。低磁場装置には、磁化率のアーチファクトの軽減などの利点もありますが、最たるものは経済的なメリットでしょうか。MRI装置の保有台数が過剰とも言われる日本では、あまりピントこない話題かもしれませんが、MRIが普及していない国々では魅力的な装置と思われます。
最後に、全体のプログラムを見て感じるのは、座長と演者に占める女性の割合の高さです。不幸にも、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長のドタバタ劇の直後でもあり、より意識したのかもしれません。日本医学放射線学会でもダイバーシティへの意識と取り組みが年々高まっており、ECR2022では、より多くの女性会員の活躍を予感しています。最後に、今回もいずれの発表も大変勉強になり、多くの若い放射線科医には贅沢な学会と思われました。ただ一方で、さすがにウエブ学会がこんなに長く続くと、以前に経験したハプニング的な討論、思わぬ研究者との出会い、立ち話から始まる研究テーマ、など実地開催ならではの収穫が懐かしく思えます。「Can we limit gadolinium use in neuroimaging?」と題したSPECIAL FOCUS SESSIONで、2人の演者が「I don’t need gadolinium」と「I always need gadolinium」との刺激的なタイトルで発表していましたが、やはりウエブでは何か違和感を覚えます。ディベート形式で、さらに会場からの意見もあれば、より面白いのに・・・。スターウォーズの全シリーズを映画館で見てきた私としましては、来年こそはウイーンに行きたいと願っています。

こんな時もありました。

『独断と偏見のECR2021視聴記』

山梨大学医学部放射線医学講座 市川新太郎先生

ECRは私が最も好きな学会のひとつである。その理由としては以下のようなものが挙がる。
1. ウィーンの街並みがきれい
2. Image interpretation sessionやCase of the dayが充実している
3. 学術セッションも教育セッションも充実している
4. 英語を母国語としない参加者が多い
昨年からオンライン開催となっているため、残念ながらウィーンの街並みを楽しむことはできないが、2と3に関してはオンライン開催でも引き継がれている。4に関してもオンライン開催ではあまりメリットとはならないかもしれない。私は以前現地開催だったころ、自分の口頭発表の前に座長に、「英語が得意ではないので、Q&Aの際に助けてください」と申し出たところ、その座長(ドイツの方だったと記憶している)は、「私も英語が苦手だから大丈夫。君の方が上手だよ。」とジョークで返された経験がある。このように、英語を得意としない者に対して寛容な雰囲気がある(と勝手に感じている)ため、現地開催が再開された際にはぜひ英語にあまり自信のない先生方も発表に挑戦してみていただきたい。
2についてだが、私はImage interpretation sessionやCase of the dayに参加することが好きで、学会参加の目的のひとつとなっている。ECRのImage interpretation sessionはエンターテイメント性が強く、今年はスターウォーズをテーマとしたつくりとなっていた。学会のPresidentをはじめ、司会者や発表者が映画のキャラクターに扮して登場し、スライドのデザインも映画をイメージさせるものとなっている。ECRはImage interpretation sessionが2つあり、エキスパートの先生が解答者となる通常のものと、Junior image interpretation quizという若手医師が解答者となるものがある。どちらも非常に勉強になる興味深い症例を堪能することができる。図1はオンデマンド画面のImage interpretation sessionのアイコンをキャプチャしたものであるが、まさにスターウォーズであり、この絵を見ただけではImage interpretation sessionと気づくのは難しい。また、ECRのCase of the dayは非常に参加しやすいのが特徴である。学会開催期間中毎日4~5問出題されるが、いずれも診断名の候補が選択肢として提示されており、その中から正しい診断を選ぶ形式である。診断名を自分で考えて記載する方式だと、見当もつかないような症例に遭遇した時はお手上げになってしまうが、ECRの方式ではそのような心配がない。誰でも参加しやすい方式だと感じている。正答数が上位10名に入るとWinnerとしてホームページに掲載され、賞状がPDFファイルで送られてくる。私は運よく2年連続でWinnerとなることができた(図2)。
次に3に関してだが、セッションの数が非常に多く、12月末までオンデマンドで視聴することができるのが特徴である。その中で私の専門である、肝臓の画像診断に関する学術セッションについてみてみると、今年は3つ設定されており(RPS 101a Advances in liver imaging、RPS 501a Hepatic imaging、RPS 301b Liver and the pancreas)、LI-RADS関連の話題と、MRI撮像技術に関するものが多かった。LI-RADSは米国放射線学会(ACR)が提唱している、肝細胞癌のレポーティングシステムを標準化するためのアルゴリズムだが、ヨーロッパでも関心が高いことが伺える。また、AIに関しては上記とは別にAIのセッションが設定されており(RPS 705 AI in abdominal imaging)、14演題中6演題が肝臓に関するものだった。腹部のAIでは肝臓領域で特に関心が高いようである。
最後にCOVID-19関連の演題について見てみると、昨年から続くコロナ禍を反映してCOVID-19関連の演題が非常に多いのも今回の特徴である。検索タブのトピック欄にある「COVID-19」をチェックすると11ものセッションがヒットし、そのうちの4つが学術セッションで、33演題が含まれている。また、Poster Exhibitionでタイトルあるいは内容に「COVID」を含む演題名を検索すると、79演題がヒットする。現時点での知見を総ざらいするのに十分すぎるボリュームと考える。
以上、ECR2021について概説させていただいた。興味を持っていただいた方は今からでもオンデマンドセッションを視聴するアクセス権を購入することができるようなので、是非視聴してみていただきたい(https://www.myesr.org/premium-education-package)。再び現地でウィーンの街並みを堪能することができる日が来ることを切に願っている。

図1

図2