第105回北米放射線学会(RSNA2019)レポート:AIとモバイルCT
富山大学医学部 放射線診断・治療学講座 野口京先生

北米放射線学会(RSNA)は、世界最大の年次医学会の1つであり、11月の最終日曜日から1週間シカゴで開催されている。今年のRSNAのテーマは「See possibilities together」(図1)。毎年5万数千人が参加しており、午前7時頃は閑散としていても、午前10時頃となると通路が参加者で一杯になる(図2,3)。

今回の学会に参加してみると、人工知能(AI)との関係性がさらに密になりつつあると感じた。年々AIに関するトピックスが増加しており、Artificial Intelligence (AI) (人工知能)、Machine Learning (ML)(機械学習)そしてDeep Learning (DL)(深層学習)などのセッションが19と大幅に増加していた(2018年度から8セッション増加)。今年から“AI Showcase”というAI関連企業専用の展示ブースが登場し、そこには130社をこえる出展社が自社のソフトウェアや製品などのデモンストレーションをおこなっていた(図4)。ほとんどはいわゆるスタートアップといわれる小さな企業のようであるが、放射線医学という領域がすでにオープンな市場としてさまざまなスケールの企業が参入を進めており、RSNA自体もそれを受け入れていると感じた。AIやDLは放射線科医の極めて強力なツールとなりうるものの、その仕組を体系的に理解することは容易ではないため、RSNAは“RSNA AI Deep Learning Lab”と称したユニークなセッションを開催していた。このセッションではオープンソースのAI/DLツールを使い、参加者が自身のPCで実際のDLの動作を体験するというものである。カバーする内容もデータをその特長によって「分類」するようなシンプルなタスクを通してAIの基礎を学ぶようなものから、もっと高度な「セグメンテーション」のさせかた、例えばMRI画像をCT画像に変換するような処理を可能とするGANsと呼ばれる高度なDLアルゴリズムの解説など広範囲におよんでおり、放射線科医がAIやDLを単なるブラックボックスとしてその理解を諦めないための試みであると思われる。一方、学会発表に目をやると、ニューロの分野では腫瘍のセグメンテーションやテクスチャ解析、動脈瘤あるいは骨折部位の自動検出などの発表が多かった。

企業展示に目を移すとやはり、AIによる診断支援や撮影支援などのトピックスが多かった。MRIに関してはフィンガープリンティング技術がアプリケーションソフトとして使用できるようになるということであり、今後の盛り上がりが期待される。

私が個人的にこの学会で最も興味深かった装置がシーメンスヘルスケアのブースに展示されていた。それは頭部専用のモバイルCTである(図5)。高さがおよそ1.5メートル、幅は2メートル弱、厚みは80センチにも満たない。患者テーブルはなくガントリーだけが台車に乗ったかのようなコンパクトなCTスキャナである。ポータブルX線装置のようなパワーアシストがついており、重さは900キロほどあるとのことだが、実機を実際に動かしてみるとその取り回しは軽々としていた。このCTはICUなど患者のベッドサイドに直接持ち込んで撮影するというコンセプトになっており、そのため電源は通常のAC100Vで動作するそうである。ガントリー自体が望遠鏡の筒のように患者の頭部を包み込んで撮影をするため、特別なX線遮蔽も必要ないとのことである。仕様的には32スライスのマルチスライスCTで、ガントリー開口は35センチ、頭部撮影にチューニングされたX線管球と低ノイズ型検出器ユニットに加えて、逐次近似再構成アルゴリズムや金属アーチファクト除去アルゴリズムなど頭部撮影に必要なスペックが整っているとのことである。実際に撮影された臨床画像を見せてもらったが、非造影画像もCTA画像も事前の予想に反して頭部診断画像としては極めて良好な画像であり、日頃読影している汎用CTの頭部画像に引けを取らない画質であった。残念ながら筆者が研究しているDual-energyには対応していないということであるが、このサイズのCTスキャナであれば救急車に搭載するなどの応用も効くことから、スピードが命である急性期脳梗塞の診断おいて、地域医療等のみならずストロークユニットなどにおいても重要な役割を担う可能性がある。

 
図1:RSNA2019              図2:火曜日午前7時

 
図3:火曜日午前10時           図4:AI Showcase


図5:モバイルCT

 

『RSNA2019』
産業医科大学放射線学教室 青木隆敏先生

2019年12月1日(日)から12月6日(金)までの6日間、アメリカシカゴのマコーミックプレイスで開催された第105回北米放射線学会(RSNA2019)に参加しました。今年のテーマは“See Possibilities Together”で、オープニングセッションでは紹介医や患者と協調した医療を行うことの重要性が示されました。AI等のIT技術の進歩が医療の変革をもたらしている中で、放射線科医はいかに患者と向き合うかを考えさせる内容でした。
今年のRSNAもメイントピックスは“Artificial Intelligence(AI)”で、私が参加したMusculoskeletal (Machine Learning and Artificial Intelligence) のscientific sessionでは、座長から、今年は骨軟部領域だけでも100題を超えるAI関連演題が応募され、このセッションの演題は9題であることから採択は極めて狭き門であったことが報告されました。昨年は単純X線写真の骨折評価やMRIでの靭帯損傷など、AIによる全自動診断を取り入れることで高い診断能が得られることを示した報告がありましたが、今年は病変検出の診断支援に加えて、膝の単純X線写真から将来の変形性膝関節の軟骨障害の予測を行うなど、AIを用いて画像から予後予測を行う主旨の発表がありました。その他、膝MRIを用いた軟骨評価にAIを取り入れ、領域ごとのT2*値やT1ρ値を自動計測した発表や、MRI画像から軟骨のコラーゲンやプロテオグリカンの量を予測した発表など、これまでよりもさらに高度なAIのパフォーマンスが報告されていました。また、一昨年前からtechnical exhibitsに新設された”Machine Learning Showcase”は”AI showcase”と名称を変え、ノースビルディング会場奥の広大なスペースには、昨年の約2倍の企業がブースを出展していました。日本からも複数の新たな企業がブースを設けていましたが、中国企業や韓国のベンチャー企業の躍進ぶりは目を見張るものがあります。この展示場の中にあるAI theater では、各企業が短時間で展示内容のプレゼンテーションを行っており、骨軟部領域のMRIでは、膝関節の半月板/軟骨損傷や、脊椎の脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアについて精度の高い自動診断ソフトが開発されていることなどが発表されていました。
ビックデータ、AIと画像診断分野のパラダイムシフトが進む中で、その動向に注目しながら、今取り組むべきは何かを考えねばならないことを実感した今年のRSNAでした。


ノースビルディング会場奥のAI showcase


マコーミックプレイスのグランドコンコースから見えるシカゴの街